No.5 招集-call-
「メールヲ受信シマシタ。機密度B、優先度A+、優先度ニ従イ自動開封致シマス。ナオ。コノメールハ読了後自動削除サレマス」
この優先度からして学園からのメール...にしては機密度が高いな。
遅れながら説明しよう。この学園では個人に専用の端末が支給されており、そこでクエストを行なったりの受注ステータスの確認、習得魔法の一覧を見ることができる。もちろん、個人のアドレスにメールを送ったり電話をかけたりすることも可能だ。端末の形状は金属製のリストバンド、これを想像していただければ概ね間違ってはいない。
そういえば、達也と焔のアドレスは...まぁいいか、どうせまた会うだろうからな。
「至急、学園長室に来られたし。追伸:入室時のパスワードを記しておくので、覚えておくこと→h4chp@dg」
空即是色、ねぇ...
あ、なんでわかったかっていうとキーボードのかな入力で入力すると「くうそくぜしき」になるから。あの古風なジジィの考えそうなパスだな。
この学園は大きく4つのエリアに分かれている。
一つ目はダイブ後に最初に出てきたエリア「リーブポイント」
二つ目が始業式を行った闘技場だ。
三つ目は学問系クエストを行う学園の校舎。
四つ目は、この空間の7割を占める「クエストフィールド」である。
このクエストフィールドで討伐系のクエストを行ったりするのだが、その広さや気候及び地質は、北極南極のような極寒地帯から砂漠のような猛暑地帯、森林地帯、海浜地帯、山岳地帯など多岐にわたる。
もちろん他の生徒と出くわすこともあり、そこで戦闘を行い勝利すればより多くの経験値を取得できる。逆に倒されてしまうと死亡ペナルティ、通称死亡ぺナが発生してしまうため、かなりのリスクを負う。
死亡ぺナの内容は、経験値の減少、経験値がゼロだった場合レベルダウン、習得魔法の一部消滅、または熟練度の減少、手持ちのアイテムや装備の内ランダムに一つ勝利者に略奪される等がある。この内運が良ければ一つ、運が悪ければ三つ四つと発生してしまう。
戦闘出来るのはクエストフィールドに限られるため他の三つのエリアは安全地帯となっている。
戦闘自体は何でもアリ。奇襲をかけようが多人数でフクロ叩きにするのもアリ。ただし多人数だと経験値が与えたダメージによって分配されてしまうため、あまり効率はよくない。
もちろん、レベルが上の相手に勝てば経験値はより多くもらえるし、レベルが下の相手に負ければより多くの経験値を減らされる。ペナルティの数や規模も似たようなものだ。
ちなみに、戦闘時の負傷とかの痛みは『殺傷軽減』で制御済みだからある程度の傷には痛みを感じない。ただ、この殺傷軽減は端末により調節が可能のため、現実で負う傷とまったく同じにすることも可能ではある。そんなことをしても意味などないが...一部の戦闘バカはこぞって殺傷軽減を低く設定するらしい。なんでも「痛みのない戦闘など戦闘ではない」とのこと。まったくもって理解し難い思想だ。
さて、そろそろ校舎に着くころだが...
あの前にいる翡翠の熊耳には見覚えがあるが、どうしたもんか。
ここは敢えて気づかれずに着いていくとするか。
クルッ
「あれ?烈じゃないッスか。後ろにいるなら声くらいかけてくれてもいいじゃないッスか~」
何故バレたし
「なんとなく後ろに誰かいる気配がしたんスよ。で、確かめたら烈だったってことッス」
「普通は気配なんて読めないだろう」
「普通なら、ね」
口調が、変わった?
声のトーンも低くなっているし、これ以上の詮索はやめておこう。
「達也はどうして校舎に?学問系クエを受けるようには見えないんだが?」
「それって、遠回しにバカって言ってないッスか?」
もう一回言うぞ、何故バレたし
「目がそう言ってるんスよ」
「ポーカーフェイスには自信があったんだがな」
「その思いっきりバカにしたような目をしていて、ポーカーフェイスが得意...?」
そんなはずはない。今だって無表情を貫いているはずだ。
...この辺で話は打ち切るか。
「そろそろ黙れ、またモフるぞ」
「そ、それだけは勘弁ッス!!!」
打ち切り成功、案外扱いやすいな、コイツ。
歩くこと十数分、ようやく校舎に着くことができた。
「長かったッスねー」
「まったくだ、非効率的すぎる」
データの容量を考えたらもっと狭くするべきだろうに。まぁ今更言っても変えられるわけではないしな、諦めるとしよう。
「えーと、学園長室って何処にあるんスかね?」
「どこかに案内板でもあるだろ…いや、そこにいる人に聞いた方が早そうだ」
案内板を探して周りを見ていると、少し先に黄金の輝きを放つ髪をした生徒が歩いていた。現実で見る金髪とは違い、こちらは完全な『金』色だ。
「すいませーん、そこの金の髪の人ー。道を教えてもらってもいいッスかー?」
行動に移すのが早過ぎだろう…少しは考えるということをしないのか、コイツは。
しかし、金色の髪をした生徒は達也の声が聞こえているはずなのにこちらを見ようともしない。
「ちょっと、聞こえないんスかー?」
「何故僕のような高貴な人間が、君みたいな一般人に道を教えなければならない?」
…なんだって?
俺らが唖然としているとそいつは明らかに見下したような目をしてさらに捲し立ててきた。
「一般人はこの程度のことも知らないのか?貴族である僕が命令するならまだしも、一般人の君達が貴族の僕に命令するだと?そんなことはあってはならない!一般人は僕達貴族に絶対服従なのだから!」
一体コイツはいつの時代のことを言ってるんだ。そんな風潮はとうの昔に廃れたはずだ。未だにこんなことを言うのはあの家系の人間しか…
「なるほど…お前、輝崎家の人間か」
「お前とはなんだ!あなた様、と言わんか!!!その上敬語すら使わんとは…貴様の親はどういう教育をしてきたのだ!!」
あー…典型的な貴族主義に染まっちまってるな。コイツら輝崎家の人間は自分たちが八家の頂点だと公言し、自分たちが世界で一番偉いのだと本気で思ってる連中だ。
もちろん、輝崎家の人間が一番偉い筈がない。先程の繰り返しになるが、この貴族主義はすでに廃れた思想なのだ。だが、輝崎家の連中はそれが認められず、未だに主張し続けている。自分の家の子供に洗脳と呼べる程の教育を施して。
「昔の人間が成し遂げた偉業を我が物顔で語る奴らに使う敬語はないな」
「またしても僕を、僕の一族を侮辱する発言をしたな…もう許さないぞ!!!」
「もう行くッスよ、烈。こんなの相手にするだけ損ってやつッス」
「それもそうだな…じゃあな、憐れな貴族サン」
「待て!!!話はまだ終わってないぞ!!待て!!待たんか!!!」
待てって言われて待つ奴って中々いないよな。
「貴様ら…覚えておきたまえ!!!」
はいはい、テンプレご馳走様でしたっと。さて、改めて学園長室を探すとするか…
「やっと見つかったッスね…」
「あぁ、そうだな…」
結局あの後さらに十分程探し続けてようやく学園長室に辿り着くことが出来た。
「パスワードを入力してっと、これでよし」
パスワードヲ、確認シマシタ。ドウゾ、オ入リ下サイ。
「思ったより時間経っちゃったッスね…怒ってないか心配ッス…」
「それはないだろうな」
「え?それはどういう…」
「入れば分かる…先に入るぞ」
そして俺はあのジジイのいる魔窟へ足を踏み入れた。
ガバッ
「待っておったぞー!!!烈ぅー!!!中々来なかったからおじいちゃん無視されたかと思って寂しかったではないかー!!!」
「ええい!!!暑苦しいだろうが!!!さっさと孫離れしやがれこのクソジジイ!!!」
ホントに変わってねぇなこのジジイは…
「よいではないか、しばらく会っておらんかったんじゃからこの位しても」
「あんたにとってたった3日がしばらくなのか!?」
「当たり前じゃ、愛しの孫に3日も会えずに学園で準備をしておったのじゃからな。長かったぞ、この3日は…」
「元はと言えば学園長が計画的に準備を進めなかったからではありませんか?」
俺らが言い争っている中、躊躇なく学園の長に文句を言ってきたのは入学式で進行をしていた女性だった。
「仕方が無いではないか、孫に会えないくらいなら準備などすべて君に任せるつもりでおったからのう、ヒメちゃん」
「私には風間 悠姫という名前があります。訳のわからないあだ名を付けるのはおやめ下さい」
「よいではないか、よいではないか。可愛い名前じゃろう?」
「可愛い、という形容詞は私には不適切です。今すぐ撤回を要求します。」
「あ、姉貴…?」
おうおう、あまりに急の事態に達也の口調がガチモードに入ってるぞ。
「おや、達也さんも一緒だったのですか。ちょうどいいですね、これであと一人集まれば招集が完了しますね。」
ジジイの奇行にばかり目がいって周りを見る暇がなかったため、今になってようやく部屋全体を把握することができた。
現在集まっている生徒は俺と達也を合わせて七人。その中には入学式前に会った焔 美琴の姿もあった。
「祖父との禁断の関係…!?やっぱり私の目に狂いはなかったわね」
…聞こえてるからな?
他には、サファイア色の髪をしたショートカットの女子、琥珀色の髪をしたロングヘアーの女子、アメジスト色の髪をした短髪の男子、黒鉄色の髪をしたセミロングの女子といったところだ。このメンツを見る限り、八家の人間が集められているようだ。とすれば最後の一人は…
「諸君、待たせたな」
輝崎家のアイツだよな…
「むむっ、貴様は、先程の無礼者!!何故貴様がここにいる!?」
「呼ばれたからに決まっているだろう。少しは考えたらどうだ?」
「僕のような高貴な人間が呼ばれるのは分かるが、何故一般人の君がここにいるのかと聞いているのだ」
「じゃあ俺もお前みたいな高貴な人間なんじゃないのか?」
「そんな筈がないであろう。貴様、名を名乗れ!!!」
まったく、面倒な奴だ…まぁこういう奴の方が扱い易くて助かるのは事実だが。
「名を聞く時は自分から、って教わらなかったのか?」
「ぐっ…下々の言う事など聞くものか!!!貴様から名乗れ、これは命令だ!!!」
これ以上は無意味だな。だが、これでこいつの扱い方は八割方把握したから良しとしよう。
「俺の名前は、舞島 烈だ。これでいいんだろ?」
「何処の家かと思って聞いていれば、あの落ちぶれた舞島家の人間か。その程度の家柄で僕に意見しようなど百年早「いいからさっさと名乗ったらどうだ?」う、五月蝿い黙れ!!」
まったくこれだから貴族って奴は…
「それでは礼儀に則り僕も名乗ってやる。僕は輝崎家の長男として生まれた、輝崎 綱介である。覚えておきたまえ!」
「気が向いたら覚えといてやるよ」
「貴様は何度僕を侮辱すれば気が済むのだ!!」
「この程度で侮辱されたと思うとは、器の小さい奴だな」
「何だと…!!貴様…もう許さん!!この場で裁いてくれる!!!」
クスクス…
「誰だ!!?僕を嘲笑っている不貞の輩は!!」
「あら、ごめんあそばせ。あまりにも滑稽だったものですから、つい」
「滑稽…だと?貴様まで僕を侮辱するのか!!」
思わぬ助け舟、これでこいつの相手をしなくてすむ。同い年にしては大人び過ぎているから上級生かな?
「尋ねられる前に言っておきましょう。私の名前は闇堂 瑞樹と申します。この学園に入学して三年目になります。…これが真なる貴族としての対応ではないのですか?わざわざ相手に先に名乗らせようとするなど礼儀を弁えていないにも程がありますわ。この程度が出来ないとは貴方、貴族失格ですわよ」
闇堂家か、この人達は輝崎家と違い正しい行い、つまり正義や礼儀を誰よりも重んじる一族で有名だ。しかも予想通り上級生ときた、そりゃ大人びてるわけだ。まさに、輝崎家とは正反対ってわけだ。
「ふざけるな!!我々貴族が何故下手にでてわざわざ自分から名乗らなければならないのだ!!」
「それがわからないから失格だと言っているのがわかりませんの?まったく、輝崎家の方は粗暴で困りますわ」
「もう許さん、許さんぞ!!決闘だ、決闘をしろ!!!」
「いい加減にせぬか、小童共」
ゾクッ
ジジイが言葉を発した瞬間、例えようのない悪寒が背筋を走った。しかし、それがすぐ殺気によるものだとこの場にいた誰もが理解していた。
「輝崎の坊主、お主は少し黙っておれ、不愉快じゃ。闇堂の嬢ちゃん、面白いからといってやたらに突っかかるものではないぞ、ワシの孫まで巻き込まれたら堪らんからのう」
最後の一言がなければ尊敬できる台詞なんだがなぁ…
「かしこまりましたわ、学園長殿」
「うむ、素直でよろしい。おや、輝崎の坊主はどうしたのじゃ?やけに静かじゃが」
あぁ、アイツなら…
「学園長ー、こいつ白目向いてるッスよー」
そりゃあんだけの殺気を向けられた後言葉をかけられた時に輝崎にだけ指向性を持たせた殺気を放てば素人じゃ耐えれんだろう。
「ふん、この程度の殺気にも耐えられんのか?近頃の若者はたるんどるのう…」
このご時世殺気に慣れてる学生なんて数えるくらいしかいないだろうよ。
「う、うーん…ここは?」
輝崎は倒れてから五分程で目を覚ました。少し記憶に混乱があるようだが、まぁいいだろう。
「さて、輝崎の坊主も目を覚ましたところで、今回君達八家を呼び出した本題について入ろうかのう」
もしかしてと思っていたが、やはり呼び出されたのは全員八家に連なる者達か。
「まずは、新一年生に紹介せねばならぬ者がおっての。雷門の倅と闇堂の嬢ちゃん、前に出て簡単に自己紹介をせい」
「「はい」」
さっきの闇堂家の上級生と、アメジスト色の髪の生徒が学園長の机の前に立った。
「まずは僕からいこう。私の名前は雷門 慎太郎という、苗字の通り、雷門家に連なる者だ。学園に入学して三年目になる。一応今は学生会の会長を務めている。何卒、これからよろしく頼む」
「あら、シンタロー。女嫌いが抜けてますわよ?」
「失敬なことを言うな!!僕は女子が苦手なのであって嫌いであるなどとは一言も言ってないぞ!!!まだまだ修行が足りんからだ!!煩悩退散煩悩退散…」
「ふふっ、みっともない所をみせちゃってごめんなさい、ああいう人なの。お寺の子だから修行とかよくわからないこと言い出すかもしれないけど、気にしないでね。さて、私の名前はさっきも言いたけど、改めまして…闇堂 瑞樹と申しますわ。学年は三年、学生連盟の会長を務めておりますわ」
「気をつけろよ、君達。此奴は魔性の者だ、油断していると喰われるぞ」
「あら、失礼しちゃうわ。せめて小悪魔的って言って下さらない?魔性だなんて、美しくありませんわ」
この二人は随分と永い仲のようだな。それにしても、会長が二人?
書き溜めてた分の投稿がこれで終わりました。
は、はよう続きを書かないと(使命感)