いち
揺れもしない緑葉に、日光が透けて。滴る朝露で森はむせる。踏みしめられた地面では枝が鳴った。落ちていない枝でさえずる鳥たちは、木々を飛び交う事もなく。
青年は、見飽きた光景にため息をつき、額の汗を手でぬぐった。この森に迷い込みはや一日。一行に次の町は見えず。目印にしていた巨木へはかなり近づけたが、ここからはさらに木々や草が深く、わけいるのは大変そう。それに、巨木にたどり着けたところで『迷っている』という状況は変わらない。
とにかく、巨木につけばなんとかなる。そんな思いを頼りにここまでやって来たけれども、根拠なんてない。
おとなしく自分の生まれた町で暮らしていれば、こんな事には逢わないで済んだのに。青年は自分に苛立っていた。
ただ黙って微笑むように在るだけの植物も、その苛立ちを強くさせた。
青年はついに両手で近くに生えている細長い草をひっこ抜いた。衣服が破れるような音と一緒にそれは抜け、草の苦い臭いが広がる。地面との繋がりを断たれた草は表情をなくした。
それでもすっきりせず、もう一度と手を伸ばした時だった。
「やめて! かわいそうだよ!」
横から、高い声が聞こえた。
青年が目を向けると、よくて14そこらの真っ白い少女が立っていた。肌も髪の毛も目も、着ているワンピースや靴さえ真っ白い。その姿に、下手に太陽光を当てていれば溶けてしまいそうな、そんな儚い印象さえ青年は感じた。
と同時に、少女に強い違和感も覚えていた。