なきはじめた森
少女は、はじめ驚いた。疲れたのだろうと、しばらくそのままにしていたが、青年が起きる様子も無いのでそっと地面に寝かせ、囁き声で巨木に尋ねた。
「寝ちゃったのかな?」
巨木はただ告げた。
「そっとしておきなさい」とだけ。
巨木にも、死という概念がわからない訳では無かった。ただ少女は違う。巨木は迷う。死というものを教えるのにこれ程いい機会は無いが、少女は深く傷つき悲しむ。少女の悲しみは森の悲しみ。それだけは避けたいのだ。
少女は、目を擦った。それは目にごみが入ったからでは無かった。
巨木は、少女を眠らせる事にした。それも、青年の事を忘れてしまう程深く、長く。
少女はふらつく足取りで巨木の裏へと歩く。巨木のちょうど裏には横穴が空いており、中は空洞となっている為少女はいつもここで寝ている。巨木はこれを『家』と教えた。
少女は『家』に入ると、すぐに横になり聞き慣れた葉の擦れる音を子守り歌に目を閉じた。
やがて、空で青年は泣き出した。太陽は拒まれ、森は涙に沈み、いつからか白い影が見えるようになった。
苦しみにあけくれた者が、救いを求めて青年の涙を浴び、白く少女の色に染まっていく。ここに苦しみは無い。
ただ、幸せも無い事も知らずに。