ねむり
青年は独り、酷く長い夜を過ごした。目を瞑っても眠れず、かといって起きている気力も無く。結局、疲れ果てて眠りにつくも見たのは悪夢で、日が昇るころには憔悴しきっていた。
草が擦れる音が大きくなって、少女が顔を覗かせた。青年のただならぬ様子が伝わったのか表情が不安で曇る。
しかし、かかった言葉はどうしたの? でも、大丈夫? でも無い。
「こっち」
少女が手で青年を招く。青年は操り人形のようにぎこちなく体を動かし、少女がいつも消え入る小さな穴をくぐり、その先の道をひたすら少女に引きずられた。
着いたのは、巨木の前だった。葉に覆われたそこは朝なのに薄暗く、涼しくはあったが何かもの寂しい。
少女は、青年の手を巨木に押し付けた。巨木の皮は湿り気が多く、緑の苔がついていて柔らかい。
「なんて言ってる?」
少女は口にした。青年にも巨木の声が聞こえていると思って。
「なんとも」
青年は掠れた声で現実を認めた。鼓動が弱くなっていく事だけ、いつもよりはっきりと感じとれる。視界は緑にぼやけ、その内の白は儚く消えそうで。
青年は手を木から放した。無意識に、手を少女に向けていた。少女は、手をとった。
青年の目が、僅かに笑って綴じられた。それっきり少女に倒れ、動こうとしなかった。