じゅうよん
青年の足が大分重くなったところで、二人は湖に辿り着いた。
溜まっている水は土の影響か、絵に描いたように真っ青で。それが少し揺れながら太陽の光を乱反射させ湖はキラキラと光っていた。
青年は、持っていた水筒に湖の水を入れ、自分も少し水を飲んだ。少女も水に足を浸し、ばたつかせてはきゃっきゃと無邪気に喜んでいた。
「ねえ、そう言えばどうしてここへ来たかったの?」
少女の唐突で悪意の無い発言に、青年は一瞬戸惑った。
「それは……」
青年は、小さい頃に姉と両親と暮らしていた。家族で食卓を囲み、あーだのこーだの好きな事を話し合う事が大好きだった。
しかし、自然はそんな光景をいとも簡単に壊した。歴史的にも類を見ない竜巻が青年の住む地方を襲い、家は倒壊、両親は飛来したガラスが刺さり死亡。姉は風に飛ばされ頭を強く打ち、命は助かったものの植物状態に陥った。
青年と姉は唯一の親族、祖母の元へと身を移し暮らす事になった。しかし、いくら時が経てども姉は目を覚まさず(医療技術の未発達により、姉が植物状態であるとは誰にもわからなかった)体は痩せ衰える一方で。いてもたってもいられなくなった青年は、祖母の提案でヴァルト湖の水を姉に飲ませる事を考えたのだった。
「……という訳だ」
少女は、何度か青年に言葉の意味を質問しながらも、何とか理解してくれたようで「治るといいね」と笑って見せた。
青年が大きな過ちを犯している事は太陽も、巨木も知っていた。二人とも、またひとりになってしまうであろう二人を、ただ見ていた。