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きゅう
青年が町に着いたころには日も落ちきっていてほぼ真っ暗だった。薄明かりを頼りにし、宿へと進む。
ふと、暖色の窓辺から笑い声が聞こえた。高い声。低い声。響く声。こもる声。
横目にしながら青年は、少し笑った。暗がりの中での笑い声は静かに風へと染み込んだ。
宿につくなり、宿主らしき女性は青年に微笑んだ。ただ、それは先ほどの青年の笑いと似ていた。
「鍵を頼む」
短く告げると、向こうは何も言わずに鍵を差し出した。
青年も黙って受け取り、少しの間は空気だけが動いていた。
「……森で」
女性は、青年を素早く見つめた。
「森で、元気そうな少女に出会った。おまけに、草を抜いていたら可哀想だからやめろと怒られた。謝る代わりに穴を少し掘って植えたら、目を輝かせてすごいって言われた。不思議な事もあるんだな」
女性が何も言わずに、顔を動かさないでいると「まあ、独り言だ」と捨てて青年は部屋へと去った。
部屋につくなりベッドに横たわった青年は、すぐに夢へと落ちた。
月は太陽の助けを受けられずに、ただ天で泣いていた。