はち
少女は微笑んでいた。
ただ、穴を掘り、植えるだけのこの作業に、命を戻す力など無いのに。それも知らずに__教えられずに__生きてきた。青年は少し、哀れに思った。
「あ、あの、ところでさ」
少女が『植える』という作業を終えた後に青年は話を持ちかけた。
「ヴァルト湖っていうのがこの森にあるって聞いたんだが、知ってたりしないか?」
ヴァルト湖。命の湖とも呼ばれ、その湖の水にはいかなる難病や怪我を治す力があり、飲めば不老不死になるという伝説さえある。青年の目的はこれだった。
「ヴァルト……こ?」
でも、少女は首をかしげ、腕を組むばかりだった。
青年は、どこか諦めた様子で「いや、わからないならいいんだ」と小さく言い、少女に背を向け町へと戻ろうとした。
「あ、ちょっと待って!」
振り向くとすぐ側に少女が駆け寄ってきていた。
「私、聞いてくるから。またここへ来てくれない?」
少女の目は、真っ直ぐと青年を射ぬいていた。嘘をつく様子は微塵もない。
「わかった」
青年が言うと、少女は顔を緩め、微笑しながら奥へと消え入った。
青年も、再び足を動かして帰途につくと、そこには植えられた草が寂しそうに揺れていた。