そんなこと言われても……
知らなかった事実を知らされる俺。
茜さん、樹さん、麗、縁は魔法が使える。魔法少女と呼ばれるような女の子である。
俺の伯母、麗達のお母さんも使えた。そして、俺の母親も使えた。
母方の血筋が魔法使いなのだ。ということで、おじさんや俺の父は普通の人間である。
茜さんが家系図を絵に書いてくれた。
「虎君のお母さんと私たちの母親は姉妹で魔法使い。祖母も魔法使い。というわけで、虎君は魔法使いの血筋なので魔力がある」と説明してくれる茜さん。
いきなり魔力がある、と言われても、16年間普通の人間として育ってきた俺である。
「全く教えられなかったんですが……」と俺。父さんは教えてくれなかった。
「おそらく、魔界と切り離したかったのね。息子を。うちの父親も同じだもの」と麗。
「お湯を沸かすのも、コンロ使えってうるさいのよ。魔法の方が早いのに」茜さん。
確かに、現実社会で魔法を使われまくったらやっかいなことになるかも。
それで、父さんは俺に魔法のことを教えなかったのか……。
教えてくれたら、自分の病気を治すとかできたんじゃないのか?
「もっとも、魔力があっても、虎君は魔法は使えないけど」と茜さん。
「え? どういうことですか?」と俺。
「現実世界で魔法が使えるのは女性だけだから」と肩をすくめる麗。
そうなのか。じゃあ、魔力があっても意味がないのか。
「しかし、『ほるもん』にはなれるかもしれない」
樹さんの声だった。
しかし、姿は見えず。と思ったら、横にいた。いつ入ってきたんだ?
先ほどと同じく露出はげしい部屋着。
「ちょっと樹。ちゃんと玄関から入ってきなさいって言っているでしょ!」と茜さん。
「いいじゃない、家族しかいないんだから」と樹さん、答える。
瞬間移動という奴か? それにしても、ほるもんって何だ? 肉? 臓物?
「ここ、壁薄いから、話、丸聞こえなんだよね」と樹さん、俺の肩にもたれてくる。
胸が当たるんですけど……。
「あ、あの、ほるもんってなんですか?」と樹さんに質問する俺。
「ああ、掘るモンスター、略してほるもん」と樹さん。
……、意味がまったくわからない。
「異界へのトンネルを掘ることができる能力があるのよ。アイテムを掘り出したりもできる」と茜さん。
はあ、トンネル? アイテム? そう言われてもイメージができない。
「やってみればわかるって! 麗、穴だして」樹さん、立ち上がって言う。
「え、でも」と眉根を寄せる麗。
「いきなりじゃ危険よ。樹」と困惑顔の茜さん。
「私がついているから大丈夫」樹さん、自信たっぷりに言う。
「だから、心配なんだけど……」と麗。
「うるさい! 早くだして!」樹さん、怒るし……。
何? 俺、何されるの?
「仕方ない、リュウキを連れてくるか」茜さん、立ち上がってでていく。
「穴」と麗に言う樹さん。
こちらも、しかたない、と立ち上がる麗。
空間に両手をかざして長い呪文をつぶやく麗。
室内に風が起こる。
俺、後ずさる。樹さんにがしっと腕を掴まれる。
麗が唱え終わると室内中央に黒い渦巻きが発生する。
火の粉のような光の粒も発生し、回転する。
魔法?
やがて、光の粒が渦巻き中央に集まり、はじける。
強風発生。
そして、直径1メートルくらいの丸い穴が床に現れる。
穴の中、真っ暗、というか真っ黒……。
何、これ?
「じゃあ、先に行っているから」と樹さん。俺の腕をつかんだまま穴に向かう。
え? やだ、なんか怖い……。
抵抗する俺。……、樹さんににらまれた。
大丈夫か? 俺?