出せない手紙
小さな森に、赤い屋根の小さな家がありました
煙突からはうっすらと煙があがっています
暖炉には暖かな火がぱちぱちと音をたてています
暖炉の前にはゆりかごのように椅子がぎいぎい、と揺れています
おじいさんは椅子に座って眠っていました
そして夢をみていました
とても懐かしい夢でした
おじいさんがまだ若者だったころ、戦争がおきました
おじいさんは兵隊さんでした
鉄砲を持って戦いました
たくさんの人が死にました
敵も、味方も、若者も、年寄りも、子供も、たくさん死にました
おじいさんは生きました
泣きながら生きました
ゆっくりと夢から覚めたおじいさんは書斎に行き、真っ白な便せんを取り出しました
それから真っ白な便せんにインクで、手紙を書きました
天国にいるおばあさんへ
遠くに住んでいる子供たちへ
子供の頃に遊んだ友達へ
一緒に戦った味方の兵隊さんへ
一緒に戦った敵の兵隊さんへ
ありがとうも、ごめんねも、たくさん書きました
書いた手紙はきれいにたたんで、封筒にいれました
封筒にいれた手紙は大きな箱にいれました
箱が天井に届いたころ、おじいさんは手紙を書き終えました
おじいさんはゆっくりと暖炉の前に戻って、椅子に座ると、また、眠り始めました
小さな森に、赤い屋根の小さな家がありました
煙突からは煙があがっていません
暖炉のなかは冷たく、椅子は黙っていました
部屋中に出せない手紙があるだけでした
初投稿でこんな話すみません
本物はもっと明るい話を投稿したかった