ネーミングセンスの無いサンタクロース
ソリはイメージどおり赤だった。
ペンキが所々はがれている。
「本当に大丈夫かな…」
ひょんな事とはいえ、我ながらやすうけあいだったかな…とも思う。
夜風が冷たい。身震いがする…。
「雅耶、乗ったか?」
カイが話しかける。
「うん…それで?どうすれば良いの?」
「目の前に手すりがあるやろ?それにつかまっててや」
見ると、遊園地の乗り物にありそうな手すりがあり、つかまった。
「ほな、行くでぇ!しっかりつかまっとけやっ!」
カイがそう言うと、いきなりソリはすごいスピードで走りはじめた。まるでジェットコースターだ。
なんだこれ!ヤバイ!落ちるって!ジェットコースターより速いって!お年よりに優しくないよ!サンタが体調悪くなったのって、このせいじゃないのか?
「カ…カイィィィ!止めて…止めてぇぇぇっ!」
必死の抵抗。
すると、今度は急停止。慣性の法則に逆らえなかった俺は、思いきり前につんのめった。
「なんやねん。折角ノリノリやったのに…」
悔しそうなカイ。
「お前、殺す気か?あんなんじゃいくら命があっても足りねぇよ!サンタってのはあんなスピードに耐えてるのかい?」
俺も必死の反論。
「んな訳ないがな。じいさんらは間違いなく死んでまうで。あんさんは若いからこのくらいなら大丈夫やと思って…」
「あのさ、俺も普通のサンタレベルにして…心と体に優しいスピードで…」
「なんや、根性あらへんなぁ」
…いや、死んだら元も子も無いだろうが…。お年よりに優しい社会はみんなにも優しい社会になるんだよ?家庭科とか社会科で習わなかったか?最も、トナカイが学生だったら驚きだが…。
「盛り上がっているところ大変申し訳ありませんが、そろそろ仕事をしませんか?予定時間まであと3時間弱です」
……?
今、確かに声が聞こえた……。少し厳しくて、冷たい感じの凜とした声。……そう、例えるなら真面目なクラス委員みたいだ。
「ほんまやなぁ……あと3時間や……雅耶、ふざけてる暇はあらへんで」
「うん、分かったけど、さっきのは……」
「あ、言ってへんかったな。紹介するで。仕事のパートナーで、かしこぉて、べっぴんさんな……」
そう言って隣のトナカイを見るカイ。ところが、カイが言い切らないうちにもう一頭のトナカイは話だした。
「トナです。あと、賢くてべっぴんという紹介は、この場で必要ありません」
サラッとカイのセリフを受け流すトナ。
「つれないなぁ……そんなん言わんでや」
カイの言葉に聞こえないフリのトナ。
俺はトナに、
「そっか……さっきはカイばっかり喋ってたから紹介が遅れたけど、よろしく」
と挨拶する。トナも丁寧に
「こちらこそ。雅耶さん」
と、ペコッとお辞儀する様な仕草をしてみせた。
「ところでさぁ……今思ったんだけど、トナとカイの名前の由来は……」
「察しのとおり、トナカイだからです」
トナの呆れたような口調。
「あのオッサン、ネーミングセンスも最悪や……」
「……苦労してるんだ……君ら……」
哀れみの入った俺の声。
「はい……」
「ああ……」
同時にため息混じりの返事をする2頭。
ソリに乗っているので表情は分からないが、その哀愁漂う後ろ姿から気持は感じとった。
……つくづく、サンタクロースって一体……。