サンタクロースとトナカイの真実……
ヤクザは居なかった。そのかわりに誰も居なかった…。
何だ?…今の声は…どこから…。
「何をキョロキョロしとんねん。ココや。あんさんはココの人間かい?」
声のする方を見てみると、なんと声の主は目の前のトナカイだった。
「あ…何で…」
パニック状態の俺。ところがトナカイはそんなことはお構い無しだった。
「質問に答えんかいっ!あんさんはココに住んどるんかっ?」
そう言って足をならすトナカイ。
そんなことすると床が傷付くだろっ!誰が直す金出すと思ってるんだよ!
…などと思ったが、それはあえて言わないで、素直に答えることにした。
「…確かにココに住んでるけど…一体何なのさ…?」
「そうか。ココの人間か…すまんなぁ、いきなりおって…驚いたか?悪いとは思ったんやけどな…」
さっきよりもいくらか口調が穏やかになったトナカイ。
っていうか分かっててやってるのかよ…それは犯罪ですよ?不法侵入ですよ?…でもトナカイには無効か…最悪あのじいさんには適応だろう…
「でも…どうしてトナカイが関西弁?」
「なんや?ココは日本じゃないんか?」
「…日本だけど…」
「なら言葉は通じてるやろ?共通語は苦手でなぁ、なかなか覚えられんわ!」
ケラケラと軽いノリのトナカイ。…お前は上京してきた関西人かい…。
などと考えていると、トナカイは突然意外なことを言った。
「あんさんに折り入って頼みがあるんやけど…」
深刻な声。
「何さ?」
俺も真面目な声になる。
「あんさん、サンタクロースやらんか?」
…はいっ?
「サンタクロースって…?さっきまでその格好してケーキ売ってたけど…?」
「ちゃうわっ!そんなんやなくて、ほんまもんのサンタクロースや。子どもにプレゼント配るやつ…知っとるやろ?」
「…サンタって…本物の…?って事は、そこで寝てるのは…」
「恥ずかしながらも本物のサンタや…今はただの腹壊したじいさんやけどな…」
呆れたように言うトナカイ。
すると、いかにも具合いの悪そうな声がベッドから聞こえてきた。
「そんな事言ったって…しょうがないだろう…まさかカキ鍋で当たるなんて…」
「それはアンタが昨日、欲張って熱通らんうちから食ったからやろうが!」
トナカイは病人にも容赦ない。
…サンタがカキ鍋?フィンランドの伝統料理とかじゃないわけ?
「とにかく、もうあんさんしか頼む人がおらんねんっ!このとおりや!」
…そんなに言われたら断れないじゃないか…
「…良いけど…俺ソリ乗ったりとかプレゼント配りとかしたこと無いよ?」
俺はやれやれと、溜め息まじりに言った。
するとトナカイは嬉しそうな顔をして、
「かまへん。アンタはただ乗ってくれれば良いんや。あと…ついでに言うと…そこのじいさんを終るまでココに寝かせてやってほしいんやけど…?」
「あ、別に良いよ」
「ありがとな〜!せや、あんさん、名前は?」
「雅耶。そっちは?」
「カイや。ヨロシクな、雅耶!」
そう言ってカイは角を俺の手の辺りに差し出した。
…握手のつもり?
とりあえず俺は角を握った。文句を言わないし、多分あってるんだろ。
サンタの衣装はバイトの時のを着る事にした。
「頼んだぞ〜…」本物のサンタは真っ青な顔をしてひらひら手を振る。
「ほな、行こか」
カイは家を出た。
俺もそれに続く。
その時、俺は窓が開けっぱなしな事に気付いた。
急いで戻り、窓から顔を出して本物のサンタクロースに言った。
「サンタさん、俺が行ったら戸締まりしておけよ!それから、2番目の引き出しに薬あるから飲めたら飲んで!」
すると、サンタはか細い声で
「了解〜」
と答えた。
…大丈夫なんかい…。
心配を残しつつ、俺はソリに乗った。