寒空のホワイトクリスマス
日本人は不思議だ。
正月に初詣に行く。
盆がある。
そして何より…クリスマスがある。
一体どこまで脳天気なのか…。まぁ、俺もそれにあやかってる訳だけど。
今年はホワイトクリスマスだ。ちらちら雪が舞う。
心に余裕があれば喜べるかもしれないが、今の俺には無理だ。
昼過ぎからずっと立ちっぱなし。しかも路上でケーキを売ってる。今はただただ雪がうっとおしい。
「クリスマスケーキはいかがですか〜?特製のスペシャルケーキですよ!限定30個があと3個です!」
っていうか、早く買えよ。売らねえと俺が帰れないんだよ。
「あと3個ですよ〜」
俺が寒いだろ。早く買えよ。買う気ねぇならこっち見て笑うな。こっちは好きでサンタの格好してんじゃねぇんだよ。
そうしていると、サラリーマン風のオジさんがやって来た。
「ケーキ下さい」
この時間帯…ということは、残業かい?クリスマスなのにお互いご苦労だね。
「いらっしゃいませ、チョコクリームが2個でホイップクリームが1個ありますが?」
俺はとびきりの営業スマイル。
「えっ…参ったな…恵美はどっちが良いだろう…」
そう言って考え込むオジさん。
おいおい、めちゃくちゃでっかく2種類って書いてるだろ!どっちでも良いから!
「えーっと…」
オジさんは2種類のケーキを見比べる。よく見ると、右手に大きな包み。…良いねぇ。待ってくれてる人が居るんだ。
かなり悩むオジさん。そして3分後、家に電話して結局チョコクリームのケーキを買って行った。
…最初からそうしてくれよ。
そのあと、感じの良いおばあさんがケーキを買って行った。孫がチョコクリームが好きなんだって。
…できればもっと早く買いに来ててほしかったよ。
「さて…」
あと一つ。
もう9時。…誰か買うかなぁ…。いっそのこと俺が買うか?…でもそれだとバイトの意味が…
そんな自問自答をしていると、急に話しかけられた。
「サンタさん、下さいな」
顔を上げると…
「義昭…」
ニヤニヤした悪友の顔があった。
…なんでお前が…。
「薫とバイトしてるんだろ?さっき会った」
「…薫は?売れてた?」
「いや、あと6個ぐらいあったよ。なによりあっちはトナカイだもんな」
笑う義昭。
…笑えん…6個って…帰れるのかよ?
「そ…そぉ?…なんで俺の所で買うの?」
…6個もあったならそっちで買ってやれよ…。
「それがさ、薫と別れた後にオフクロから電話あってさ、急にケーキ買って来いって!引き返すのもめんどかったから雅耶んとこで買うことにしたんだ!無かったらどうしようかと思ったよ」
明るく笑う義昭。
「ははは…そっか…」
引きつった笑いの俺。
薫…クリスマスまで不幸な男め…。
そんな事を考えながら俺は義昭にケーキを渡した。義昭は代金を俺に渡した。
「じゃーなー!また新学期になー」
笑いながら手を振る義昭。
…言うなよ。俺がこんな格好でクリスマスにケーキ売ってただなんて!
俺は急いで店じまいをして薫の元に向かった。