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間抜けな彼との、勉強会

――あの日、私の愛する馬鹿のもとを離れてから、三年の月日が経った。



私、観月里奈は現在、アメリカの大学で英文学を学んでいる。


自分の好きなことを思う存分勉強できるのは、充実した時間だと思う。


だけど…。



「やっぱり、一人は少しつまらないわね…」



大学でのお気に入りの場所、図書館の一番奥の席で勉強しながら、大きく溜め息をつく。



こっちに来て、新しい友達もできた。私の他にも、日本からの留学生はいて、よく一緒に遊んだりもする。


でも…、やっぱり一人の人物のことが頭から離れない。



「今頃、何をしているのかしら、勇馬君……」



そうして私は、なんとなく空を見上げた。


彼と過ごした時間を、思い出しながら―――。






―――私が旅立つ一週間前。ある一人の落ちこぼれが、私に泣きついてきた。



「頼むっ、観月!勉強教えてくれ!!」


「…………」



そうして涙を流しながら私に土下座をしているのが………


「おい、勝手なナレーションを入れるな。俺は泣いてないし土下座もしてない」


「うるさいわね、細かいことを」



そんなツッコミを入れるこの男が、学校一の馬鹿、霧谷勇馬。


便所たわしのようにツンツンした無造作な頭が特徴で、


私の……、彼氏、だ。



「それで?何の教科を教えて欲しいのかしら?」


「えーと、数学と化学と物理と古典と英語と…」


「それじゃ霧谷君、勉強頑張って」


「待って頼むって!本当に全部ヤバいんだって!!」



なぜ彼はここまで必死になっているのか。

そう、もうすぐ定期テストが始まるからだ。

今回良い点数を取れなければ、赤点は確実らしい。



全くこの馬鹿は本当に…、世話がやける。



「場所は?」


「へ?」


「だから、場所はどこにするの?勉強するんでしょ?」


「ほっ、本当か!!」


「ただし、成績上がらなかったら殺…、殺すわよ」


「……今、言い直した意味あったのか?」






―――そして放課後。




「恋人の家に初めて行くなんて…とっても緊張するわ。いやん」


「嘘つけオイ」




結局、勉強は霧谷君の家ですることになった。




「本当よ?だからさっきから、足取りが不安定なの」


「そうか、その不安定な足取りで、よくもまぁ俺の靴のかかとを正確に踏み抜いてくれるもんだな」




私は彼の一歩後ろで、彼の靴のかかとを踏んで歩行を妨害ながら歩いている。




「あなたの歩調に合わせて歩いているからよ。不可抗力だわ」


「だったら後ろ歩かなきゃいい話だろ!!」


「しょうがないでしょ…。まだ、隣を歩くの、恥ずかしいから…」


「え、そ、そうなのか?えーと…まぁ、それなら仕方ないよなっ!」


「あと…あなたの靴、とても踏み心地が良くて…」


「返せっ!!俺のときめきを返せっ!!」




そうやって話している間に、目的地に到着してしまった。

もう少し、踏んでいたかったな…。



「そこ、名残惜しそうにしてないで入って」



でも、玄関先から霧谷君が呼んでいたので、仕方なく中に入った。


すると―――




「あれ?お兄ちゃん、お客さん連れてきたの?」



そこには私より少し背が低い、ポニーテールの女の子が立っていた。



「あぁ、そういえば二人は初対面か。

観月、こいつは俺の妹の(かえで)

楓、こっちは俺のクラスメイトの観月だ」


「初めまして。霧谷楓です。いつも兄がお世話になってます」


と言ってペコリとお辞儀をした。



「初めまして。へぇ、こんなかわいい妹さんがいたのね」




霧谷君の妹…か。

一体どんな面白い見せ物になるのだろうと半ば期待していると、



「あ、スリッパどうぞっ」


と言って、履き物を用意してくれた。



「お兄ちゃん、後でお茶とお菓子持っていこうか?」


と、兄に対しても気配りを見せる。



「いや平気、俺が自分で運ぶから」


「そっか。

じゃあ私はリビングの方にいますので、何か御用がありましたら呼んでください」



そして私達に気を遣ってか、奥の方に引っ込んでいった。



……信じられない。……なんて、……なんて、



「なんて、まともなの…!?」


「なんかリアクションおかしいだろうがぁぁ!!」




あれが本当に霧谷君の妹だというの?

だとすると……



~[結論]~

隠し子ね、間違いないわ。




「…霧谷君、たとえ何があったとしても、妹さんはあなたの誇りよ…!」


「うん、何考えてるかわからんけど多分違うから安心しろ」




そんな雑談を済ませて、霧谷君に案内され二階の部屋に上がる。




「あら、案外すっきりしてる部屋ね…。つまらないわ、もっと混沌が欲しいところね」


「おーい、お前は何を期待していたんだ?」




霧谷君の部屋は青を基調としているかなり片付いた空間で、私が持っていた男の人の部屋のイメージとはかけ離れていた。




「じゃあ俺はお茶入れてくるわ」


「ありがとう」




ここで霧谷君が退場。


さて、と……。




―――2分後。



「お茶入ったぞー」


「ありがとう、いただくわ。…ところで霧谷君」


「ん?どうした?」


「私達、今この部屋に二人きりよね?」


「ゲホッ、ゲホッ!!な、何をいきなり…」



いじりがいのある初々しい反応。



「このままだと私……そのうち、こんなことされてしまうのかしら…」



そう言って、私はさっきの間に見つけ出した、水着姿の女性が多数写っている本を見せつけて―――



「うぉぉぉお!!?ななななんつうもの取り出してんだお前はぁぁあ!!」



彼はバッタのようなジャンプで本を奪い返した。




「あなたのベッドの下の運動靴が入った段ボールに仕込まれた二重底の下に新聞紙を重ねて隠してあったから…つい見つけちゃったの」


「つい見つけられるレベルじゃねぇだろ絶対!!」


「こんなものの隠し場所に頭使うくらいなら、普段から少しは勉強しなさいよ」



全く…男子ってどうしてこんなものに興味があるのかしら…。



「…私というものがありながら」


「ん?何か言ったか?」


「っ!!別に、何でもない!!」



小声で言ったんだから、そこは聞き流しなさいよ!!この馬鹿!!



「それより、勉強するんでしょ!?ほら、早く準備する!!」


「りょ、了解…」




そうして、ようやく勉強は始まった。

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