完璧なフィッティングルーム
高級店の密室で解かれていく、締めあげられたビスチェ。
静かなフィッティングルームで明かされる、彼女の美しい秘密とは――。
少しダークでレトロな雰囲気を、どうぞお楽しみください。
『完璧なフィッティングルーム』
重厚なオークのドアが閉まると、外の喧騒は嘘のように途絶えた。フィッティングルームに満ちるのは、甘い名香の残り香と、肌を掠めるシルクの微かな擦れ音だけだ。
「……これ、本当に外れますの?」
大きな姿見の前で、クララは掠れた声を漏らした。
身につけているのは、幾重ものボーンと繊細なレースが組み上げられた特注のビスチェ。複雑に交差したシルクのリボンが滑らかな肌を強く締め上げ、まるで身体の一部のように密着している。
背後に立つ仕立て屋の男は、何も答えない。
黒い手袋を嵌めた指先が、彼女のうなじから背骨のラインへゆっくりと滑り降りる。無口な彼の規則正しい息遣いだけが、クララの耳元に鼓動のように響いていた。
男の指先が第一のループを捉え、しなやかな手つきで紐を解いていく。
一本、また一本と縛鎖が緩むたび、クララの胸の奥に溜め込まれていた熱が、熱い吐息となって漏れ出た。
「あ……っ」
紐が解けて肌を撫でる感触に、背筋を甘い痺れが駆け抜ける。緊張で全身の筋を強張らせる彼女をよそに、男の指は迷いなく、密着した生地と肌の隙間へ深く潜り込んでいく。熱を帯びた指先が肌に触れるたび、クララは思わず身悶えた。
息が詰まるほどの静寂の中、男の手が背中の最深部にある最後のフックに触れる。
指先に僅かな力が込められ――
カチリ。
硬質な金属音が、狭い空間に小さく響き渡った。
抑圧から解放されたビスチェが、はらりと床へ滑り落ちる。
クララは甘い吐息をつき、熱く火照った身体を鏡に映し出した。
――だが、脱ぎ捨てられた生地の下から現れたのは、柔らかく波打つなめらかな素肌ではなかった。
鏡の中に浮かび上がっていたのは、白磁のように磨き上げられた胸元と、その中央で静かに噛み合う幾重もの精密な真鍮製ギアだった。
ビスチェは服などではなく、彼女の胸郭を締め上げ、内部の機械仕掛けを隠し留めるための「封印」だったのだ。
フックが外れた振動に応じるように、彼女の胸の奥から、低く美しい時計仕掛けの駆動音がコトコトと鳴り始めた。仕立て屋の男は手袋を静かに脱ぎ捨てると、露出した歯車たちの隙間にそっと指を滑らせ、愛おしそうに目を細めた。
「――お見事です、ご主人様。今作も、完璧なフィッティングでしたわ」
自動人形は蕩けるような声でそう囁くと、機械の鼓動を響かせながら、静かに深く頭を下げた。
『完璧なフィッティングルーム』をお読みいただき、本当にありがとうございました。
今回は「高級仕立て屋の密室」というフェティッシュでクラシカルな装いの裏に、蒸気機関や時計仕掛けのようなレトロスチームパンクの仕掛けを忍ばせてみました。解かれていくビスチェの緊張感と、最後に開かれる歯車の駆動音のコントラストを楽しんでいただけていれば幸いです




