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婚約破棄された私が選んだ居場所  作者: 秋月 もみじ


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第7話 本当の実力


午後2時。


ギルドの扉が勢いよく開いた。


息を切らした伝令が飛び込んでくる。


「緊急依頼です!」


「王都近郊のグリーンヒル村に、高ランク魔物の群れが!」


空気が一変した。


私はカウンターから身を乗り出した。


「詳細をお願いします」


「オーガロードが群れを率いて村を襲撃中!」


「数は20体以上!」


オーガロード。


Aランク相当の魔物だ。


群れを率いているなら、村一つが数時間で壊滅する。


「王都の主要ギルドは?」


バルドが奥から現れた。


「遠征中です! 戻りは明日の夕方!」


「チッ……」


バルドが舌打ちした。


「今、王都近郊でまともに動けるのは、うちだけか」


ギルド内がざわめく。


Aランク相当の群れ。


朧月支部の戦力で対応できるのか。


私は立ち上がった。


「受けましょう」


全員が私を見た。


「セシリアさん……」


リゼットさんが不安そうな顔をする。


「時間がありません」


私は冷静に続けた。


「村人200名の命がかかっています」


「それに」


私はバルドを見た。


「私も現場に行きます」


「は?」


ルークが目を剥いた。


「お前、戦闘できねえだろ」


「戦闘はできません」


私ははっきり言った。


「でも、指揮は取れます」


「指揮?」


「皆さんをバラバラに突撃させては被害が出ます」


「私が全体を見て、的確な指示を出します」


ルークは黙り込んだ。


しばらく考えて、深く息を吐いた。


「……条件がある」


「はい」


「絶対に俺のそばを離れるな」


その声は、いつになく真剣だった。


「前線には出さねえ。後方で指示だけ出せ」


「約束します」


「よし」


バルドが手を叩いた。


「総員出撃だ!」


馬車で2時間。


グリーンヒル村に到着した時、既に戦闘が始まっていた。


煙が上がっている。


悲鳴が聞こえる。


オーガの咆哮。


「うわああああ!」


村人が逃げ惑う声。


私は馬車から降りて、戦場を見渡した。


【並列思考】発動。


視界が広がる。


複数の情報が同時に頭に流れ込む。


オーガロード1体。


通常オーガ15体。


ゴブリン群30体以上。


村の北側に集中している。


村人は南側に避難中だが、逃げ遅れも多数。


自警団が必死に防戦しているが、圧倒されている。


「状況を伝えます」


私は冒険者たちに向かって言った。


「敵はオーガロード1体、オーガ15体、ゴブリン30以上」


「村の北側に集中。南側は比較的安全」


「作戦を組みます」


私は頭の中で戦術を構築した。


前世の緊急対応経験。


限られたリソースで最大効果を出す方法。


「ルークさんは前衛でオーガロードを引きつけ」


「リゼットさんは後衛からゴブリン群を範囲魔法で掃討」


「他の皆さんは二手に分かれて、村人避難誘導と通常オーガの個別撃破」


「私は後方から全体指揮を取ります」


「了解!」


「分かった!」


全員が配置についた。


私は村の高台に陣取る。


ここなら戦場全体が見渡せる。


「開始!」


ルークが最前線に躍り出た。


剣を抜いて、オーガロードに向かう。


「こっちだ、デカブツ!」


オーガロードが振り返った。


3メートルを超える巨体。


筋骨隆々。


巨大な戦斧を振り上げる。


ルークは軽やかに回避。


カウンターで脚を斬りつけた。


オーガロードが怯む。


「リゼットさん、今です!」


「はい! ファイアストーム!」


リゼットの炎魔法がゴブリンの群れを飲み込んだ。


悲鳴が上がる。


ゴブリンが次々と倒れていく。


「いいぞ!」


でも、オーガの数が多い。


通常オーガが村人を追い詰めている。


「ガレスさん、東側の家屋にオーガが2体!」


「了解!」


ガレスが駆けつける。


槍でオーガの脇腹を突いた。


オーガが怒ってガレスに向き直る。


村人が逃げる隙ができた。


私は【並列思考】をフル稼働させた。


戦場の全情報を処理。


最適な指示を次々と出していく。


「マルコさん、ルークさんの右側をフォロー!」


「リゼットさん、左の建物の影にゴブリン5体!」


「避難誘導班、西側の路地に取り残された子供!」


冒険者たちが私の指示に従って動く。


最初は戸惑っていたが、指示が的確だと分かると信頼してくれた。


バラバラだった動きが、一つの生き物のように連動し始める。


戦況が好転していく。


でも。


オーガロードが咆哮した。


周りのオーガたちが一斉に動きを変える。


統率されている。


ただの群れではない。


「変異種だ!」


誰かが叫んだ。


オーガロードには知性がある。


戦術を理解している。


まずい。


オーガロードが戦術を変えた。


ルーク一人に集中攻撃を仕掛けてくる。


「ルークさん、囲まれます! 一度下がって!」


「無理だ!」


ルークが叫び返した。


「ここで引いたら村に入られる!」


彼は一歩も引かない。


剣を振るい続ける。


でも、多勢に無勢。


オーガの棍棒が彼の左肩を打った。


鮮血が舞う。


「ルークさん!」


「平気だ! まだやれる!」


彼は痛みを無視して戦い続ける。


でも、明らかに動きが鈍くなった。


このままでは——。


「下がってください!」


私は拡声魔道具で叫んだ。


「まだ戦える!」


「駄目です!」


私の声が戦場に響いた。


「あなたが倒れたら、誰がみんなを守るんですか!」


ルークの動きが一瞬止まった。


「死んで守るなんて、許しません!」


「生きて、勝ってください!」


その言葉に、ルークの目が変わった。


死ぬ気で戦っていた目が、生きる意志に変わった。


「……分かった!」


ルークが一歩下がった。


「リゼットさん、マルコさん! ルークさんの左右を固めて!」


「了解!」


「はい!」


リゼットの氷魔法が地面を凍らせる。


オーガたちの足が滑る。


マルコが盾でルークをかばった。


「ガレスさん、側面から挟撃!」


「よし!」


ガレスが横から切り込む。


ルークへの圧力が減った。


オーガロードへの道が開いた。


「今です! 総攻撃!」


私の指示に合わせて、全員が動いた。


完璧な連携。


まるで一つの意志で動いているかのよう。


ルークが前に出た。


渾身の一撃。


大剣が閃く。


オーガロードの首が飛んだ。


ドサリと巨体が倒れる。


残りのオーガたちは統率を失って逃げ始めた。


「やったー!」


歓声が爆発した。


勝った。


私はその場にへたり込んだ。


【並列思考】の反動で頭がクラクラする。


でも、みんな無事だ。


村も守れた。


「セシリア」


ルークが近づいてきた。


血まみれだが、笑っている。


「お前のおかげだ」


「私は何も戦っていません」


「バカ言え」


ルークは私の頭に手を置いた。


「お前の指揮がなかったら、俺たち全滅してた」


「戦闘だけが戦いじゃねえ」


「お前が俺たちを勝たせたんだ」


その言葉に、胸が熱くなった。


私にも、できることがある。


戦えなくても、みんなの役に立てる。


「それに」


ルークは少し照れくさそうに笑った。


「『生きて勝て』って言われたの、初めてだ」


「いつも『死ぬ気でやれ』ばっかりだったから」


「新鮮だった」


私は涙が出そうになった。


「当たり前です」


「あなたに死なれたら、私が困ります」


「そうか」


ルークは私の頭を軽く叩いた。


「じゃあ、これからも生きて頑張るか」


「はい」


周りに冒険者たちが集まってきた。


「セシリアさん、すげえよ!」


「あんな的確な指示、初めてだ!」


「おかげで怪我人も最小限だ!」


みんなが私を称賛している。


でも、私は首を振った。


「皆さんが頑張ったからです」


「私は、少し整理しただけ」


「謙遜すんなよ」


ルークが笑った。


「お前の『本当の実力』、今日よく分かった」


「戦えなくても、十分すぎるほど強い」


その言葉が、胸に深く響いた。


夕方。


私たちはギルドに戻った。


村人たちからの感謝。


冒険者たちの達成感。


そして、ルークとの新しい信頼関係。


「今日は俺の奢りだ!」


バルドが叫んだ。


「飲め飲めー!」


宴会が始まった。


私はジュースを飲みながら、みんなの笑顔を見ていた。


ルークが隣に座った。


「肩、大丈夫ですか?」


「ああ。リゼットの回復魔法で治った」


彼は肩を回してみせた。


「なあ」


「はい」


「お前、やっぱり只者じゃねえな」


ルークが真剣な顔で言った。


「事務だけじゃなく、戦術まで完璧だ」


私は少し考えた。


「私は……」


私は彼を見つめた。


「ただのギルド受付嬢です」


「皆さんが働きやすいよう、サポートするのが仕事です」


ルークはしばらく私を見ていた。


やがて、ふっと笑った。


「最高の受付嬢だな」


彼は自分のジョッキを私のグラスに軽く当てた。


「乾杯」


「乾杯」


カチン、と小さな音。


私は幸せだった。


自分の能力が、誰かの命を救った。


仲間を守れた。


そして、彼に認めてもらえた。


王宮では「役立たず」と言われた力が。


ここでは「最高」と言われる。


私は、ここで輝ける。


そう確信した夜だった。


窓の外に星が瞬いている。


明日も、この場所で働こう。


みんなと一緒に。

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