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婚約破棄された私が選んだ居場所  作者: 秋月 もみじ


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第10話 新しい居場所


朝8時。


王都中央の大ホール。


年に一度の冒険者ギルド大会。


全国から集まったギルド関係者で賑わっている。


私は報告書を抱きしめた。


手が少し震える。


「緊張してるか?」


ルークが隣で言った。


新しいAランクのバッジが胸で光っている。


書類仕事を克服して掴んだ、努力の証。


「少しだけです」


「大丈夫だ。お前の資料は完璧だ」


彼の声に安心する。


バルドが豪快に笑った。


「楽しんでこい! 俺たちは最高のギルドだってな」


リゼットさんも頷く。


「セシリアさんがいてくれて、本当によかった」


みんなの言葉が胸に響く。


深呼吸。


私たちは頑張ってきた。


この1年間、みんなで築き上げてきた。


「運営効率性部門、朧月支部の発表を開始します」


司会の声が響いた。


私は壇上に上がった。


まぶしいライト。


何百人もの視線。


でも、怖くない。


カウンター越しに、いつも人と向き合っているから。


「朧月支部の改革について、ご報告いたします」


私は落ち着いて話し始めた。


「私たちが掲げたテーマは『頑張りすぎない改革』です」


会場がざわめく。


「完璧を求めず、修正しながら進める」


「冒険者の自主性を尊重し、押し付けではなく共に作る運営」


「依頼主との信頼関係を、透明性と丁寧なコミュニケーションで構築」


資料を示しながら、具体例を説明していく。


依頼票の分類システム。


ポイント制評価制度。


緊急時の連携体制。


「改革前、私たちは『底辺ギルド』と呼ばれていました」


私は正直に言った。


「書類は山積み、クレームは日常、優秀な冒険者は他支部へ」


「でも、一つずつ問題を整理し、みんなで解決策を考えました」


「結果として、登録冒険者数30%増加、依頼処理率95%維持」


「何より、『ここにいていい』と思える場所になりました」


会場が静まり返った。


そして、拍手が起こった。


最初は小さく。


でも次第に大きくなっていく。


私は深く一礼した。


「ご清聴ありがとうございました」


壇上を降りると、ルークが待っていた。


「完璧だったぞ」


「ありがとうございます」


その時。


「あら、セシリア・ローゼンハイム様?」


聞き覚えのある声。


振り返ると、学園時代の同級生。


貴族令嬢だった。


「やはりあの元王太子妃候補の……」


周囲がざわめき始める。


「なぜ貴族がギルドなんかで働くの?」


「恥ずかしくないのかしら」


蔑むような視線。


ひそひそ話。


以前なら、怖くて逃げ出していただろう。


でも、今は違う。


「何か問題でも?」


低い声が響いた。


ルークが私の前に立った。


威圧的な雰囲気に、貴族たちが怯む。


「セシリアは俺たちの仲間だ」


「お前が何者だろうと、俺たちには関係ない」


他の冒険者たちも集まってきた。


「そうだ! セシリアさんは俺たちの誇りだ!」


「文句ある奴は俺たちが相手する!」


リゼットさんも前に出る。


「セシリアさんは、私たちの家族です」


バルドが豪快に笑った。


「貴族だろうが平民だろうが関係ねえ」


「朧月支部は実力主義だ」


私は涙が出そうになった。


みんなが守ってくれている。


私を受け入れてくれている。


「ありがとうございます……」


「礼なんかいらねえ」


ルークが私の頭を軽く叩いた。


「家族だからな」


その言葉に、胸が熱くなった。


家族。


私には、こんなにも温かい居場所があった。


「発表します!」


司会の声が響いた。


「運営効率性部門、最優秀賞は——」


「朧月支部!」


歓声が爆発した。


「やったー!」


「勝ったぞ!」


冒険者たちが抱き合っている。


私もリゼットさんと抱き合った。


「やりましたね!」


「みんなのおかげです!」


ルークが私を肩車した。


「おっと!」


「お前が主役だ!」


会場中が拍手している。


先ほどの冷たい視線は消えていた。


代わりに、温かい祝福の目。


私は手を振った。


心の底から嬉しかった。


夜。


ギルドでの祝賀会。


冒険者たちが酒を飲み、笑い、歌っている。


私はジュースを飲みながら、その光景を見ていた。


幸せな時間。


「セシリア」


ルークが声をかけてきた。


「屋上に来てくれ」


「屋上に?」


「話したいことがある」


彼の表情が真剣だった。


私は頷いた。


階段を上がる。


屋上に出ると、夜風が心地よかった。


星空がきれいに見える。


「きれいですね」


「ああ」


ルークは私の隣に立った。


しばらく黙って星を見ていた。


「なあ、セシリア」


「はい」


「俺、やっとAランクになった」


「おめでとうございます」


「書類仕事も、まあ何とかなるようになった」


「私がいつでも手伝いますから」


「そうじゃなくて」


ルークは私を見た。


琥珀色の瞳が星明かりを映している。


真剣な顔。


「俺は……」


彼の声が震えている。


「お前のことが好きだ」


心臓が止まるかと思った。


「仲間としてじゃねえ」


「女として、好きだ」


ルークは不器用に続けた。


「お前は元貴族で、俺は冒険者だ」


「釣り合わねえかもしれねえ」


「でも」


彼は私の手を取った。


大きくて、温かい手。


「お前と一緒にいたい」


「お前を守りたい」


「これからも、ずっと」


私は涙が溢れた。


嬉しくて。


温かくて。


「ルークさん……」


「嫌なら、断ってくれ」


「嫌じゃありません」


私は彼を見つめた。


「私も、あなたのことが好きです」


ルークの目が大きく見開かれた。


「本当か?」


「はい」


「俺みたいな不器用な男でも?」


「不器用だけど、優しい」


私は笑った。


「強いけど、仲間思い」


「そんなあなたが好きです」


ルークは私を強く抱きしめた。


「……ありがとう」


彼の声が震えている。


「幸せにする」


「私も、あなたを幸せにしたいです」


私は彼の背中に手を回した。


「ここで、一緒に」


二人で抱き合ったまま、星空を見上げた。


風が優しく吹いている。


下から仲間たちの歓声が聞こえる。


「やっとかよ!」


「おめでとう!」


バレていたらしい。


恥ずかしいけど、幸せだった。


エピローグ


半年後。


私とルークは結婚した。


ギルド近くの小さな家を借りて、新しい生活を始めた。


朝、二人で起きて、一緒に朝食を作る。


「パン、焦げてますよ」


「悪い悪い」


ルークが慌てて火を弱める。


他愛のない会話。


でも、特別な時間。


一緒にギルドに出勤する。


「おはよう、新婚さん!」


「まーだ恥ずかしがってるのか?」


冷やかされても、もう慣れた。


私は受付カウンターへ。


ルークは依頼掲示板へ。


「行ってくる」


「気をつけて」


彼は手を振って出て行く。


いつもの光景。


でも、今は特別な意味がある。


昼下がり。


カラン、と鈴が鳴った。


フードを被った男性が入ってくる。


アレクシス殿下だった。


「いらっしゃいませ」


「久しぶりだな、セシリア」


殿下はフードを下ろした。


穏やかな表情。


王として成長した顔。


「結婚したと聞いた」


「はい」


「幸せそうだ」


殿下は優しく微笑んだ。


「それが何より嬉しい」


小さな包みを置く。


「祝いだ。受け取ってくれ」


「ありがとうございます」


「また来るよ。一人の客として」


殿下は去っていった。


包みを開けると、美しい万年筆が入っていた。


『新しい人生に幸あれ』というカードと共に。


胸が温かくなった。


夕方。


ルークが帰ってきた。


「ただいま」


「おかえりなさい」


彼は自然に私を抱きしめる。


「今日はどうだった?」


「殿下がお祝いを持ってきてくださいました」


「そうか。良かったな」


ルークは万年筆を見て笑った。


「俺たちの結婚、みんなに祝福されてるな」


「はい」


私は窓の外を見た。


朧月支部の看板が夕日を浴びて輝いている。


あの日、全てを失って辿り着いた場所。


でも、そこで見つけた。


本当の自分。


本当の仲間。


そして、本当の愛。


「セシリア?」


ルークが呼んでいる。


「今行きます」


私は笑顔で答えた。


ここが、私の居場所。


私が選んだ、私の人生。


これからも、この場所で生きていく。


大切な人と共に。


理不尽な断罪から始まった第二の人生。


それは、誰よりも幸せな物語になった。


自分で選んだ道を歩み。


大切な人たちと出会い。


本当の居場所を見つけた。


もう、誰にも奪わせない。


この幸せを。


この日常を。


この笑顔を。


私は、ここで生きていく。


朧月支部で。


ルークと共に。


みんなと共に。


それが、私が選んだ人生。

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