俺の復讐
「...。」
今日も、酷い夢をみて目が覚めた。
「...お目覚めかな」
「...灰。」
灰。お互いがお互いを利用し合う関係。
容姿端麗、誰がどう見ても美形の男。それでいて、愛人などの話は聞いたことがない。一途とかいう噂も根強い。
「今日はどうする?」
いつも通り、怪しい笑顔で。
「...昨日買ったコーヒーで。」
「はーい」
これぐらい怪しい方が、丁度いい。信じなくていいから。
立ち上がると、ふと過去の記憶が俺の脳を掠めた。
アイツに、相棒に銃口を向けられたあの記憶が、どうしようもなく胸に残る。
「やっぱり、痛む?」
「...いや。俺に、感傷に浸る時間なんてものはない」
「あんまり生き急ぐと、いいことないよ。」
俺がこうしている間にも、アイツは...。
「ま、死ぬなよ。雪。君が死ぬと俺も困るんだから。」
「...そっちもな。」
すると、メガネの位置を調整した灰が言葉を発した。
「んで...今日はここ。」
「...そこって。」
最近勢いづいてきた組織の拠点。
「そこで情報交換をして、協力関係を結ぶ。俺らは基本単独だから、後ろ盾はあればあるほどいい。」
俺らは...俺と灰は、似た者同士で、手を組んだだけ。互いに、信頼などない。利用し、利用される。灰も、何かに復讐するために俺を利用しているらしいが...。何が憎いのか、何に復讐するのか...俺は全く知らない。灰もまた、俺が何に怒り、何に復讐するのか、知らない、聞かない。
...それが、俺らの心地良い丁度いい距離感。
「...じゃ、俺ちょっと出てくるわ。時間までには戻る。」
「行ってらっしゃい。」
灰の言葉もロクに聞かず、外に出る。
そして...いつもの場所に。
「...。」
廃ビルの屋上から、この街を見下ろす。
冬の冷たい風が、俺の髪を、パーカーを靡かせる。これが、日課。この街のどこかに、アイツはいる。同じ空気を吸っている。それだけで、俺の心が荒ぶって仕方ない。
「...はぁ。」
溢れるのはため息ばかり。別に、独りが寂しいとか、そんなことじゃない。
...ただただ、虚しい。復讐すると誓って、どれほど経った?あの時、どうすればよかったのかと...。どうしようもない後悔ばかりが浮かんで。
今、何を思ったところで過去は変わらないというのに。
「...!」
あの、車。
そんなまさか、と心のどこかで否定する。その、現実を。
「アイツ....の。」
あんな誰も知らないようなスポーツカーを乗り回して、幾度となくカーチェイスに使い、「修理費がー」とか嘆くあの男が使っていた遠くからでも良くわかるあの少し傷の付いたあの車は。
「...!!」
昂ぶった俺を抑えるかのように、スマホが鳴る。
...灰からだった。
でも、どうでもいい。スマホを放置し、あの車を追う。
急いで駆け下りる。すると、とっくに車の影はなくなっていた。まあ、当たり前だ。
「おい、そこのやつ。スポーツカー見なかったか!?」
「え!?あ、あぁ...そっちに...行きました。」
「サンキュー!!」
今まで出したこともない速度を出した。だが...。
「チッ...やっぱだめか...。」
車、しかもスポーツカーにただの人間が敵うはずもなかった。
「やっぱり。」
聞き慣れた声を聞いて、振り返る。
「....!!!」
心臓の鼓動が速くなるのがわかった。
「久しぶり。元気だった?よく生きてたね。」
「...テメー、一体どの面下げて俺の前に出てきやがった。」
俺が...世界で最も憎む、相手。
...黒宮巳火。
「うーん、そうだね。君の憎き復讐相手、かな?」
どこまでも、人の神経を逆撫でするのが好きな野郎だ。一瞬、長年考え続けてきたコイツへの問いが頭に浮かんだが、答えを聞くのが怖くて、押し殺した。
「やっか?」
「今の君には無理でしょ。そうやって、復讐するっていいながら他の生きる理由を探しながら生きてる、甘くなった君じゃあ...ねえ?」
コイツの放つ言葉の一つ一つが、俺の心を抉っていく。
「甘くなんかねえ...よ!!」
拳を握りしめ、コイツに殴りかかる。
「ほら、甘い。あの頃より次の攻撃が読みやすい。弱くなったんじゃない?」
奴は俺の拳を、すっと横にずれて避ける
「...。」
言葉を発する余裕すらなく、ただ、怒りを胸に秘めて拳を握る。
「...馬鹿。へえ、君が雪の復讐相手...ってとこ?」
声がして振り返ると、灰がそこに立っていた。
「...なんでお前、ここに。」
「はぁ...。利害で繋がる、雪が言った言葉でしょ。万が一もないとしても、君が死んだら困るのはこっちだっつってんの。朝も言ったでしょ。...勝手に死なないでくれる?」
なぜ俺の居場所がわかったのか...なんてことは、後で聞けばいい。
「...アイツが、俺の復讐相手...黒宮巳火。」
「なるほど、黒宮...。今ここで、やるの?」
「...いいや。今の俺じゃ、きっと無理だ。でも...だからって、お前の手を借りることもしない。あくまで、コイツを殺すのは俺だ。また、出直す。」
悔しい。本当に、どうしようもなく悔しい...が、だからといって現状が一切見えなくなってはこの世界では生きていけない。この闇の裏社会では、相手と自分の力量の差を測るのが一番大事な能力。それは、たとえどんな状況でも捨ててはならない。
「はっ、君がちゃんと自分の立場がわかってて安心したよ。その観察眼は健在だね。...いいよ。見逃してやる。...ネズミ共。」
奴は俺を見定めるかのように、上から俺を覗き込む...あの時と同じように。
「いつか、ぜってえお前の余裕そうな面を引っぺがしてやる。首長くして待ってろ、大蛇。」
「...迷惑かけたな。」
「たしかに迷惑。めっちゃ迷惑。控えてくれる?」
「...お前なあ。」
復讐するっていいながら他の生きる意味を探してる...か。
「...俺に...復讐以外になにがあると思う?」
「なんもないさ。俺も、雪も。」
復讐以外、何もない奴らの集まり。それが...俺達。
...飢えた鼠
『へぇ、面白いね?君。』
電話越し、彼の声が響く。
「...そんなことはどうでもいい。計画通り、頼む」
『はいはい。全く君も、下種だよね。』
「...お前みたいな下衆に言われたかないな。」
電話を切り、首元のロケットペンダントに手を伸ばす。
「絶対に、許さない。だから...勝手に死なれちゃ、困るんだ。」




