100メートル走るだけ
「on your marks」
やけに発音のいい声を聞いて、4レーンの先ほど、自分に合わした、スタートブロックの前に行く。
少しジャンプをしたあと、腿上げをし、軽くハムストリングのストレッチをした。
今大会は記録会であるため、少し前はさほど緊張はしなかったが、この走る間近の時は、緊張する。
心臓の音が体に響く中、スタートブロックに足をかける。
足をかけたまま、胴を起こし前を向き、ゴールを見た。
今日はゴールが近く感じる。
「set」
腰を上げた。
この間は競技場が、静寂に包まれる。
その静寂の中は、自分の心臓の音だけが、よく聞こえる
「パーン!!」
静寂を切り開く、ピストルの音が響く。
その響きとともに、自分含め、8名の選手は一斉にスタートから飛び出た。
スタートの感覚は悪くなかったが、顔を下げた状態でも分かるほど、隣レーンの5レーンが鋭いスタートをきり、前を先行した。
ただ、自分は後半型だから、そこまで焦るものではなかった。
顔を上げた。
5レーンが少し大きく前にいたのと、何人かが、自分より少し前にいた。
記録会で狙うは、自己ベストである一着である。
記録会は自己ベストが近い人と、同じ組になるからだ。
自己ベストが同じくらいの人に勝つのはうれしいものだ。
50メートルを過ぎたあたり、ここからが自分の本領発揮だ。
自分は後半型だ。
70メートルあたりに行ったとき、少しずつ、前を自分より先行していた者が、見えなくなって来た。
80メートル残るは5レーンだけが少し前に見える状況だった。ただ前に見えると言っても、その距離はスタートの時より、だいぶ詰めていた。
90メートル
5レーンと距離を詰め、抜かせる!と思ったとき少し体が硬くなってしまった。
そのまま抜かせずゴールした。
二着だった、抜かせそうだったが、身体力んでしまって、最後の最後、思うような走りができなかった。
少し悔しいが、自己ベストは更新できたのがうれしかった。