ある日のこと
風が私の身体を押している。
フェンス越しに、教師が何か言っている。それは、彼らが持つ道徳的な言葉。
私には通じないよ、あなたたちの言葉なんて信じられるものではないのだもの。
見下ろせば、蟻の群のように生徒達が私を見ていた。
私の心は空虚、だってあなた達には分からないでしょ?
校門には両親がいた。ごめんなさい、そうとしか言えな、いや言わないでおこう。
ざわざわと下が騒がしい。私の死を見れば、彼らは焼き付けるのだろうか、自らがしていた行為に罪を感じるのだろうか。
屋上へと出てきたのは、一人の少年。多分彼は私を説得させるために来たのだろうな。
「騒がしくて、せっかくのお昼寝タイムが台無しだよ」
そう私の恋人は言う。
「私のせい?」
「うん」
死のうとしている人間に対してでもずけずけと言ってくるのは、なんとも彼らしい。
「あのさ、死ぬ気なの?」
「うん」
髪をかきむしっている。髪が少しはねてる、かわいい。
私はクスリと笑った。
「私は本気だよ、もう誰に求められない、だから止められないし止まらない」
いや、多分彼や家族は違う。
「僕だけじゃ不満?」
「自意識過剰なのは、違うところだけにして」
あれっ、なんかあるっけと彼はとぼける。でも素なのは知っていることだから何も言わない。
「僕は止めないよ」
そう言って彼は近づいてくる。フェンス越し、手を伸ばせばふれる距離だ。
「君が本気で決めたことに僕は、否定する気はないから」
いつもそうだ。
この笑顔はずるい。
「もうあなたの笑顔が見れないことは、とても残念だわ」
私は決めたんだ。
足一つ分しかないこの世界で、一歩下がる。
さよならばいばい好きだったよ。