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婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました  作者: 星名柚花


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43/56

43:三倍返しが信条です

「えっ、いや、だから……わ、わかるでしょ?」


「ほう。オレには言わせといて自分は黙秘を貫くと?」

 楽しそうだった金色の瞳が一転して、不機嫌そうに眇められる。


「…………」

 確かに不公平ではある。が、改めて自分の気持ちを言葉にするのはどうにも恥ずかしい。


(……ええい!! 腹を括れ、わたし!! 十五歳のエマでも言えることよ!? 当たり前のような顔で手を繋ぐセラとリュオンの姿を見て、羨ましいと思ったんでしょ!? わたしもジオとそういう関係になりたいんでしょ!? ここで逃げたら女が廃るってもんよ!!)


 臆病な自分を叱咤し、キッと鋭い眼差しでジオを睨みつける。


「……だからっ、好きなのよっ!! ジオのことが!!」

 夜でもわかるほどに顔を赤くしてルーシェは言った。


「…………ぶっ」

 こっちは真剣だというのに、あろうことかジオは吹き出して顔を背けた。


「なんで笑うのよ!?」

 さすがに腹が立って叫ぶ。


「いや、だって。愛を告白されてるはずなのに、宣戦布告されてる気分で……お前いま自分がどんな顔してたか自覚ある?」


「う……」


(……これがもしセラなら恥ずかしそうに照れながら、可愛らしく好きですって言ってたわよね……)


 そしてそのほうが断然男受けが良いに決まっている。


 セラは同性のルーシェから見ても大変可愛い。


 たまに抱きしめたくなるときがある――というか堪らず何度か抱きついている。


「……セラみたいに可愛くないからやっぱりダメ……?」


 自信をすっかり失い、泣きそうになりながら上目遣いに尋ねると。


「馬鹿じゃねーの?」

 呆れ返ったような顔をされた。


「馬鹿とは何よ!?」

 つい反射的に噛みついてしまう。


(あああ。だからこういうところがダメなのに……)


 胸中で涙を流す。

 わかってはいるのだが、それが自分なのだから仕方ない。


「馬鹿だから馬鹿だって言ってんだよ。お前より可愛い女がこの世に存在するわけねーだろ」


「!!?」

 ぼんっと、ルーシェの頭は爆発した。

 それを見てまたジオが笑う。


(悔しい……)

 余裕たっぷりな態度が悔しい。

 ルーシェばかりがいちいち振り回されている。


 とにかくその余裕顔を崩したい。自分のように激しく動揺させたい。


 ルーシェは持っていた石を隣に置いた。


 ジオの顔を両手で掴み、引き寄せて唇を重ねる。


「………………」

 ここで顔を真っ赤にして照れたら可愛いのに、ジオの反応は驚きに軽く目を見開く程度のものだった。


(どうよっ!?)

 実験結果を見るような気分で身体を引くと、ジオは真顔で言った。


「……襲われたくないなら不用意にそういうことはしないほうがいいぞ」

「襲ッ……!?」

 ルーシェは絶句した。


「言ったよな、オレ、だいぶ前からお前のことが好きだったって。率直に言ってめちゃくちゃ欲求不満なんだよ。なんならいまここで押し倒すぜ?」


「いまここでッ!? ちょちょちょちょっと待って、落ち着いて!? 結婚前の男女に相応しい慎みを持って、健全なお付き合いをしましょう!? わたしが悪かったから!? ね!?」


 両肩を掴まれて慌てふためく。

 パニックのあまり涙目になったルーシェを見て、ジオは手を離して笑い出した。


「冗談に決まってんじゃん。ここ人ん家だぜ?」

「……………~~っ」

 ルーシェは涙目のまま、抗議の意思を込めて握り拳でべしっと彼の腕を叩いた。


 ジオは痛がる様子もなく笑い続けている。

 さっきのルーシェの慌てぶりがよほど愉快だったらしい。


(~~~っ。おかしい。こんなの間違ってるわ。ジオを狼狽させるつもりだったのに、何故わたしのほうが激しく狼狽えさせられてるの!? こっちはキスまでしたのに!! 恥ずかしかったのに!! だからなんでそんなに余裕なのよ!?)


 ふと思い出す。

 そういえば彼の信条は「やられたら三倍返し」だったような気がする。


(……これは下手なことはできないわね……刺激したら何されるかわかったもんじゃないわ……マジで襲われそう……)


 突然ジオが立ち上がったので、ルーシェはびくっと肩を震わせた。


「な、何?」

「何怯えてんだよ。帰るだけだよ」

「そ、そうね、帰りましょうか」

「警戒しすぎだろ。まあ、お前はそんくらい警戒したほうがいいけどな」

 ジオは笑ってルーシェに手を差し伸べた。


「ほら、帰るぞ」

 ルーシェを見下ろす長身の頭上では銀色の月が輝いている。


「……うん」

 当然のように差し出された手を握って立ち上がる。

 自分の手よりも大きくて、骨ばっている、ジオの手を。


 もう一方の手では彼から貰った石を握り、夜の庭園を歩きながら幸せをかみしめていると。


「……お前ってほんとわかりやすいよなー」

 ジオはルーシェを見て何故かまた笑った。


「え?」

「なんでもねーよ。可愛いって言っただけ」

「かかかか可愛くなんてないし!! 全然ちっとも可愛くないし!!」

「はいはい可愛い可愛い」

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。


「ちょっと、髪が乱れる!! 止めて!!」

「とか言って嬉しいんだよなー」

「ううう嬉しくなんてないんだから!!」

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