調理
※鳥の解体描写あり
「じゃあ、ミャー。この鳥を捌いちゃいましょうか」
『みゃっ!』
用意していた厚手のカバンに鳥の死骸を入れ、そのまま地下室を出た私とミャーだった。
もちろん貴族令嬢が鳥を捌けるはずもない。けれど、今の私はただの幼女じゃない。前世の記憶を思い出したスーパー幼女なのだ。
血が飛び散るのでほんとは外で解体したいのだけど、庭ですると誰かに見られるかもしれないから厨房で作業開始だ。もう死んでいるのでそれほど血も飛び散らないんじゃないかな?
謎の鳥。
大きさはやはりキジやクジャクくらい。
見たこともない種類だけど、形は鶏に似ているので、鶏と同じ解体方法でいける……はず。
厨房に残されていた大きな鍋に水を貯め、魔石コンロの上に置いて火を掛けておく。
まずは血抜き。血を抜いた方が雑菌の繁殖が抑えられたり、肉に血が回らないので美味しくなるのだとか。ただ鶏に血抜きは必要ないと言う人もいるのでよく分からない。
とりあえず私は血を抜くように教わったので、抜いてしまえばいい。
手順としては鳥の足をロープで縛り、逆さ吊りにして、首を切って血を抜くのだ。ほんとは生きているうちに頸動脈を切って心臓をポンプ代わりにするのがいいのだけど、もう死んでいるのでゆっくり血抜きするしかない。
まずは首の切断だ。厨房にあった一番肉厚の包丁で鳥の首を落とす――ぐぬぬ! 幼女の筋肉だと落とせないかも!
何度か刃を振り落としてもダメだったので、仕方なくグリグリと鳥の首に刃物を押し当てていると、見かねたのかミャーが『みゃっ!』と鳴きながら鳥の頭を食いちぎってくれた。そのまま頭の骨や嘴ごとバリバリと食べてしまうミャー。
うーん、ワイルド。
ミャーから少し視線を外しつつ、鳥の足にロープを掛けて、逆さ吊りに――あ、よく考えたらロープがないじゃん。逆さ吊りにできるフックも……。そもそもそんなものがあっても天井までは手が届かないし。
『みゃ?』
「えーっとねぇ。身体の中の血を抜きたいんだけど、難しいかなぁって」
『みゃっ!』
なんだそんなことか、みたいな顔をしてからミャーがその長い尻尾を振った。
すると、鳥の頭を食いちぎった傷口から、みるみるうちに血が流れ出してきて、球体になってしまった。
空中に浮かぶ、いくつかの血の球。グロテスクなような、ちょっと綺麗なような。
そのままミャーは血の球を『ばくん』と丸呑みしてしまった。ちょっと悪食すぎない? 大丈夫?
ま、まぁいいや。あとは羽をむしっていくのだけど、そのままだと抜きにくいので70度くらいのお湯に浸けて一度丸茹でにする。
鍋に入れてコンロに掛けておいた水はいい感じの温度になっていたので、そのまま鳥を投入。鳥本体を揺すりながら、羽の中にまでお湯が行き渡るように、っと。
鍋から鳥を引き上げたら、地道に羽を抜いていく作業だ。
『みゃ、みゃ、みゃ♪』
ミャーも協力してくれたので比較的短時間で羽むしりは終了した。あとは細い毛が残っているので表面を軽く炙って焼いてしまえばいいのだけど……。え? ミャーがやってくれるの?
『――みゃっ!』
がこん、と。顎を開いたミャーの口元に魔力が集まっている、気がする。
嫌な予感がしたので鳥から距離を取ると、ミャーの口から炎が吹き出した。
火炎放射!?
まぁドラゴンだからできるのかな!?
吃驚仰天しているうちに鳥はいい感じに炙られていた。
台所が焦げていないのは火を使うから耐熱処理がされていたのか、あるいはミャーが手加減してくれたのか……。
さすがにあの短時間で中まで火は通っていなかったので、普通に解体開始だ。丸焼きでもいいけど時間が掛かるからね。
まずは背中に十字の切り込みを入れてからひっくり返し、両股の付け根に切り込みを入れて、関節を外す。あとは包丁で肉などを切り、引っ張れば足の取り外しは完了だ。
続けて手羽を切り離してから、胸の骨に沿って切り込みを入れ、胸肉を外していく。
そしてささみの付いた胸骨を『かぱっ』と外す。
ここまで切り分けたお肉はちょっと離したところに置いておいて。最後に内臓を取り出す。雑菌がいるかもしれないから注意しながらお腹を開き、内臓を取り出して――うん?
なんだか、鶏では見慣れない部位が。心臓のあたりに。
石?
宝石?
砂が入っている砂肝は見たことがあるけど、宝石って? 何でこんなものが?
普通の貴族令嬢なら宝石の種類も分かるんだろうけど、私には縁遠い存在だったからなぁ。
なんだこれと首を捻っていると、頭の中に声が響いてきた。
≪――スキル・解体を獲得しました≫
お? またなんかスキルが? よく分からないけど解体が楽になるのかな?
試してみたいけど、もう鳥はないので後回しだ。というかお腹が空いたのだ私は。
本当は各部のお肉から骨を抜くのだけど……お腹空いたのでこのまま焼いてしまう。
調味料は、少し残ってはいるけど古すぎるので使わない。つまり味付けはなし。今日はとりあえずお腹に溜まればいいのだ。
コンロの魔石にはまだ魔力が残っていたので、フライパンで焼いていく。
『みゃーーーっ!』
お肉の焼けるニオイにテンションが上がったのか、目をキラキラさせるミャーだった。
そして、
「じゃじゃーん! 完成! 謎の鳥のヤキトリです!」
我ながらネーミングセンスゼロだけど、ミャーは『みゃー!』と拍手してくれた。いや実際は拍手なんてしてないけど、ミャーの心は確かに拍手をしてくれた。そんな気がするのだ。
「というわけで、いただきます」
『みゃみゃみゃっ』
私の真似をしてか前足を合わせようとするミャーだった。長さが足りなくて届いていないけど。
さて、謎の鳥のお味は……。うん、味なし。まぁ調味料もないからねぇ。
あとは肉質の関係か妙にグニャグニャしているというか、噛み切りにくいというか。舌が痺れてきたというか、痺れが全身に回ってきたというか……。
≪――危険水準を超えました。自動回復の機能を緊急解放します≫
うん?
≪自動回復のレベルが上昇しました≫
≪サブスキルとして毒分解を獲得しました≫
≪毒分解のレベルが上昇しました≫
≪毒分解のレベルが上昇しました≫
≪毒分解のレベルが上昇しました≫
≪――神経毒に対する耐性を獲得しました≫
毒だったんかーい!
思わず頭の中の声に向かってツッコミを入れてしまう私だった。