ルイナス!
『――みゃ!』
聞き慣れた声。
ルイナスが視線を下に向けると、リーナのペット(?)であるミャーがルイナスを見つめていた。
相変わらず不思議な生物だ。
ルイナスは部屋に引きこもっているので読書をする時間が長い。そして世界を自由に駆ける冒険者に憧れを抱いていたので、それに関連する魔物図鑑もよく眺めていた。
その結果として断言できるのは、こんな魔物も、動物も、存在しないということだ。いや図鑑には載っていない新種の生物という可能性もあるのだが……。
「キミは、いったい何?」
ルイナスの疑問を理解しているのかいないのか。彼の質問に答えることなくミャーは扉の中に入ってしまった。
「……お姉様!」
ミャーが向かうのだから、この先にリーナがいるのだろう。そう判断したルイナスは覚悟を決めた。ゆっくりと、しかし確かな足取りで謎の扉へと向かう。
もしかしたらあの扉の先にリーナがいて、動けなくなっているかもしれない。
もしかしたらミャーは助けを求めてここまで来たのかもしれない。
そうして。ルイナスが目を閉じて扉を潜ると――次の瞬間。彼は洞窟の中に立っていた。
「……え?」
風景どころか気温や湿度まで違う。ジメジメとした不快な空間……。周囲を見渡したルイナスが後ろを振り返ると、扉は変わらずその場に鎮座していた。
その向こう側には、リーナの部屋が見える。それがルイナスに少しばかりの安心感を与えた。
ミャーが洞窟の中を進む。
それをルイナスが追いかける。
ルイナスはまだ魔法の勉強を始めていないので灯火は使えない。けれど、ミャーの尻尾の先に明かりが灯っていたので問題なく進むことが出来た。
そして――
『――ぎゃあ! ぎゃあ!?』
「ひっ!?」
頭上から突如として響いてきた鳴き声に、ルイナスは反射的に頭を抱えながらしゃがみ込んだ。
襲われるかもしれない。
痛いかもしれない。
奥歯をギュッと噛みしめたルイナスだったが……何も起こらなかった。
「?」
瞼を開け、洞窟の天井を見上げる。
そこには、何もいなかった。鳴き声を発しそうな生物など一匹も……。
「気のせい? いや、洞窟だからどこかから音が響いてきたとか?」
疑問に思うルイナスだったが、早く追いかけないとミャーに置いて行かれてしまうので先を急ぐのだった。
ルイナスたちが去ったあと。
洞窟の地面には、魔力を吸われすぎて干涸らびたキラー・バットたちが転がっていた。
≪――魔力喰らいのレベルが上昇しました≫
◇
「――は!?」
やっと見つけた犬っぽい魔物を乱獲していると、私の鼓膜が可憐な声に震えた。
これは!
間違いなく!
ルイナスが私を呼ぶ声!
「空耳っすか?」
「お姉様、これからは普通にお医者様にかかれるのですから……お早めに……」
なぜか生温かい目を向けられてしまう私だった。なぜだ?
「――お姉様ー?」
「ほら聞こえた! これは間違いなくルイナスの声!」
「……聞こえないっすよね?」
「聞こえないですわよね」
顔を見合わせるフィナさんとアリスだった。あれー?
いやしかし待って欲しい。ルイナスの声が聞こえるということは、ルイナスがダンジョンの中に入ってしまったのでは!?
「今日はミャーさんが扉のところで待機してくれているのでは?」
「ですわよね?」
首をかしげる二人をその場に残し、私はルイナスの声がした方に向けて駆け出したのだった。お姉ちゃんですよー!




