扉
――夜。
ルイナスは目が覚めた。
相も変わらずの暗い部屋だ。夜なので明かりが付いていないのはもちろんだが、何よりも雰囲気が暗い感じがするのだ。
謎の体調不良が起きるせいで、誰も入ってこなくなった部屋。
お姉様によれば、それがルイナスのスキルなのだという。
本当かどうか。それはもうすぐ判明することだろう。リーナやアリスと共に、ルイナスもスキル鑑定のため教会を訪れることになっているのだから。
本来であればまだ6歳であるルイナスではスキル鑑定はできないはず。だが、おそらくガーランドが無茶を通したのだろう。どういうつもりなのか、ルイナスには分からないが……。
『――――』
ふと、ルイナスは振り返った。
部屋の片隅に佇むのは、年若く見える女性。――女性の、幽霊。
おそらくは母親だと思う。
声を掛けても無反応だし、あちらから何かを言ってくれたこともないけれど。それでもなんとなく、ずっと見守ってくれていたこの人は『母親』なのだろうと思えてしまうルイナスだった。
夜であるせいか。あるいはルイナスが眠っていると思っているのか。その幽霊は無反応だった。
母親だと思う。
ずっとルイナスの側にいてくれた。
しかし、声を掛けてくれたことは一度もないし、もちろん抱きしめてくれることはない。リーナのように優しく語りかけてくれないし、温かな抱擁をしてくれることもない。
なんだか、ひどく寒いような気がした。
抱きしめて欲しいと思った。
リーナのところに行けば、また抱きしめてくれるだろうか?
こんな夜中に、迷惑ではないだろうか?
……たぶん、邪険にはしないはずだ。
もしかしたら喜んでくれるかもしれない。
短い付き合いながらも、リーナの反応から確信を抱けるルイナスだった。
「――よし」
決意したルイナスはそーっと部屋の扉を開けたのだった。普段から大人しくしているおかげか、見張りのメイドもいなかった。
部屋を抜け出すルイナス。
そんな彼を、女性の幽霊は黙って見つめていた。
◇
「……お姉様~?」
リーナとアリスの部屋のドアをゆっくりと開けるルイナス。もし眠っていても起こさないようにという配慮だ。
そんな配慮をするくらいなら、そもそも夜中に部屋を訪れない方がいいのだが。ルイナスはまだ6歳。自分の『ぬくもり』を優先してしまっても仕方がないだろう。しかも記憶にある限り初めて感じたぬくもりだ。
「……いない?」
部屋を見渡すルイナス。
ベッドの上には誰もいないし、専属メイドもいない。いやメイドは隣室に控えている可能性もあるのだが、もしそうならルイナスに反応して姿を現さないのは奇妙だった。
「……扉?」
部屋の片隅に、見慣れないものを見つける。屋敷の装飾とは明らかに異なる扉だ。よく見れば壁に付いているわけではなく、扉だけで立っているようだ。
明らかに怪しい扉。
姿が見えないリーナとアリス、そして専属メイド。
ルイナスがどうしたものかと悩んでいると、
『――みゃ!』
そんな声が聞こえた。
※書籍化作業につき、来週の更新はお休みします。




