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【受賞・書籍化】魔石喰らいの最強聖女 ~悲劇の運命は『力(パワー)』でなぎ倒します!~  作者: 九條葉月


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子供


 ――竜の息吹(ドラゴンブレス)


 アリスも使えるはずなんだよね。私と一緒にドラゴンの魔石を食べたのだから。あと、天からの声も聞いているはずだし。


「うっわ、自分の妹に魔石を食べさせて、ドラゴン・ブレスを吐けるようにするとか……」


 ドン引きするフィナさんだった。ちがいますー。事故ですー。そもそも魔石を食べたときはそんなスキルがゲットできるとは思わなかったしー。まさかほんとにアリスが魔石を食べるとは思わなかったものー。


『みゃー……』


 人のせいにしてんじゃねぇよクズが……。みたいな声を出されてしまった。マジすみません。


 まぁ、アリスができるかどうかはダンジョンで実際に試してみるとして。アレは威力が高すぎて自分の顔を火傷するんだよねぇ。かといって使いこなせないのはそれはそれで危険だし。何とかしないと――


 と、私が頭を悩ませていると、部屋の外に人の気配が近づいて来た。


「誰か来ますね」


 冒険者であるフィナさんなら気づいているかなーっと思い声に出してみると、フィナさんは「うっげぇ」という顔をした。


「なんでそんなことまで分かるんですか?」


「え? 冒険者って気配察知とかできないんですか?」


「んな漫画やアニメじゃないんですから」


「えー、イメージ崩れるー」


 ……ん? 漫画やアニメ?


 薄々怪しいなーっとは思っていたけど、まさか……?


 それを確認する前に部屋の扉に設置されたドアベルが鳴らされた。


「――お嬢様方。ベラでございます」


 ベラというと公爵家のメイド長さんだっけ?


 フィナさんが「開けていいっすか?」と確認してきたので了承すると、フィナさんはいかにもメイドさんらしい隙のない足取りでドアへと近づき、扉を開けた。おぉ、今の私、お嬢様っぽくない?


「お嬢様方。昼食までまだお時間がありますし、よろしければ屋敷をご案内いたしますが」


「え? あ、はい。よろしくお願いします?」


 メイド長に案内させていいのかなーっとは思うけど、まぁ悪かったらここまで来ないかと思い直し、承認する私だった。





 ベラさんに案内されるまま屋敷を歩き回る私たち。

 ちなみに構造としては一階に客室やダンスホール、調理場など。二階がお爺さまやおばあ様、お父様(暫定)たちの部屋。あと図書室。そして三階が子供部屋となっている。子供部屋が三階なのは勝手に外に出て行かないようにするためなのだそう。


 ちなみに使用人たちは別棟で寝泊まりしているけど、フィナさんみたいな専属メイドや住み込みの家庭教師なんかは屋根裏部屋で生活してもO.K.らしい。


 屋敷の規模こそ大きいけど、構造自体はそこまで複雑じゃない。広いので移動は大変だけどね。図書室なんて公共施設かなってレベルだったし。


 あと、屋敷の地下に地下牢はなかった。貴族の屋敷には一つくらいありそうなイメージがあったんだけど。


『みゃー』


 どんなイメージだよ、みたいなツッコミをされてしまった。いやほら大貴族じゃん? 家族の中で罪を犯した人間とか、望まれない子供とか入れられてそうじゃない?


『みゃー……』


 お前が言うと冗談にならないんだよ……みたいな感じの目を向けられてしまった。うんまぁ私って別邸に軟禁されるレベルの子だったからねぇ。


 ま、それはとにかく。


 構造自体は単純なので迷う心配もなさそうだね。というわけで今度は屋敷を出て、庭へ。


「屋敷の裏手には騎士団の宿舎と訓練場がありますが、危険ですのであまり近づかないようにしていただきたく。もちろん、お嬢様方がお望みになれば見学は自由ですので」


「はーい」


 貴族の私設騎士団ってヤツかぁ。公爵家ってすげぇ……。


 見学はいいけど危ないから誰か大人と一緒に行けってことでしょう。私たぶん騎士より強いけどね。それはそれとして心配させる趣味はないので大人しく承知しておく。


「では、これより『ガゼボ』へとご案内いたします」


「がぜぼ?」


「庭の中にございます、簡易な屋根と柱だけの建物でして。休息所とでも言いましょうか。天気のいい日は近くのバラ園を眺めながらのお茶会も可能となっております」


「へー」


 前世における東屋みたいなものかな? というか庭にバラ園があるんかい。そんな広い庭なら休息所も必要だわ……。公爵家ってすげぇ……。


「――ん?」


 なにやら視線を感じた私は、その場で立ち止まって振り返った。正確に言えば、見上げた。先ほど出てきたばかりの屋敷の三階を。


 私たちの部屋。から、階段を挟んだ反対側。屋敷の案内では足を運ばなかった場所だ。てっきり空き部屋かと思っていたのだけど……。


 そんな、部屋。

 部屋の、窓。


 私たちを見下ろしているのは――小さな子供と、大人の女性?


 なんとなく、大人の女性は小さな子供の母親じゃないのかなぁと感じる私だった。


「――――」


 ベラさんが私の背後で表情を険しくしたのが何となく分かる。


「ベラさん、あの子供と大人は?」


「……子供と、大人、でございますか?」


 あれ? もしかしてごまかされる感じ? 『その部屋には誰もいませんよ?』って返事が返ってくる系? まさか存在を消された子供とか? 公爵家の闇みたいな?


 でもお爺さまとおばあ様が子供を軟禁したり存在を隠そうとしたりするかなーっと首をかしげていると、ベラさんが深刻そうな声で私に問いかけてきた。


「大人の女性がいるのですか?」


「へ?」


 ベラさんの方を振り向くと、彼女は私と同じように三階の部屋を見つめていた。顔を真っ青に染めながら。


 ベラさんは確かにあの部屋を見ている。小さな子供と、大人がいる窓辺を。


 再び視線をその部屋へ。……うん、やっぱり子供と大人がいるよね? でもベラさんには大人が見えていない? あれ? もしかして公爵家の闇じゃなくてホラー展開とか?


 幽霊って物理攻撃力で何とかできるのかなーっと考えていると、


「――興味深いね」


 そんな声が掛けられた。聞き慣れた、というほどじゃないけど、先ほど聞いたばかりの声だ。


 残念なイケメン。お父様(仮)


 なのだけど、先ほどの痴態が信じられないほどピリついた雰囲気を纏っている。


(ふーん、こっちが本性(・・)かぁ)


 さすが高位貴族だなぁっと素直に感心する私。もし前世の記憶がない普通の幼女だったらあまりの変貌ぶりに怖くて泣いていたかもね。


「へぇ」


 面白い子だ、みたいな目を向けてくるお父様。たぶん私も『おもしれー男』みたいな目を向けているのでお互い様かな?


「さて、リーナ。子供と大人がいるというのはどういうことかな?」


「どうと言われましても、そのままの意味ですが……」


 視線をお父様から外して例の窓へ。……あれ? 窓辺にいた二人の姿が消えている。お父様の登場で隠れたとか?


「いなくなりましたね?」


「……そのようだね」


 お父様も窓へと目を向けて、少しだけ残念そうな顔をした。


「その子供と大人、どんな見た目をしていたかな?」


「子供の方はふわふわした金髪の男の子でしたね。どことなくお父様に似ているかもしれません」


「……大人の方は?」


「茶色の髪を後ろで編み上げた女性でしたね。年齢は20代後半から30代くらい? かなりの美人さんでしたよ」


「……そうか。美人か」


 ふっ、と小さく笑ったお父様は私の肩を両手で掴んできた。


「もしかしたらもう教えられているかもしれないが、キミには弟がいる」


「弟、ですか?」


「あぁ、とはいえ年齢的には同い年で、キミより数ヶ月遅く生まれた程度だ。――私と亡き妻の子供であり、本来なら公爵家を継ぐ立場にあるのだが……少々厄介な病気でね。人に会うのが難しいんだ。なので、なるべく近づかないでくれるかな?」


「……軟禁しているわけではなく?」


「軟禁、と言われれば否定はできないかな。だが、忌み嫌っているわけではなく、あの子と周りの人間の安全を考えてのことだ。それだけは信じて欲しい。毎日ドアを挟んで会話をしているし、頻繁に手紙でのやり取りもしている」


「まぁ、お父様はともかく、お爺さまとおばあ様が子供を軟禁するとは思いませんが」


「はははっ、なるほど。それはその通りだね」


「……亡くなった妻ということは?」


「あぁ、そうだね。――リーナはきっと、私の亡き妻の幽霊を見たのだと思う」



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