作戦会議
「――やっぱあたしに公爵家のメイドは無理っすわ! リーナお嬢様のご健勝を冒険者をやりながらお祈りしてるっす!」
「死なば諸共!」
引き継ぎを終えて部屋にやって来たフィナさんとそんなハートフルなやり取りをしたあと。私、アリス、フィナさんで今後の作戦会議というか予定の確認をすることにした。
「えーっと、まず直近の問題は教会でやるスキル鑑定ですね」
「お嬢様、なんか知らないけどメッチャ持ってますもんねぇスキル」
「ふっ、やはり私の溢れる才能がですね」
「はいはい。で? どうするんすか?」
「私は隠蔽工作のスキルで色々隠せるからいいんですけど。アリスは持ってないから色々バレちゃうかもしれないんですよ。聖女の称号とか」
「…………。……んー、さらっと新情報出すのやめてもらえません? ブラエってなんすか? まだスキル持っているんすか? あとアリスお嬢様が聖女って……?」
「あれ言ってませんでした? 私とアリス、ダブル聖女なんですけど」
「…………。…………。…………。……お疲れ様でした~」
「に が さ ん」
逃げようとするフィナさんの襟を(ドラゴンパワーで)掴むと、フィナさんはいやいやと首を横に振り始めた。
「あたしを面倒ごとに巻き込まないでください! なんすかダブル聖女って!? あの没落寸前の伯爵家に聖女が二人誕生したと!? じゃあなんですかあの伯爵は神様かなんかですか!?」
「あー、大丈夫。血は関係ありません。たぶん。どちらかというと特殊条件を達成したから聖女に選ばれたと言いますか」
「……うわぁ、聖女を神聖視してる大聖教にケンカ売ってるぅ。そんなゲームみたいな感覚で聖女を増やさないでくださいっすぅ……」
「私だって狙って聖女になったわけじゃないですし?」
「狙わずに聖女になっちゃう方が大問題っすわ……。じゃあなんですかいつの間にか聖女が大量生産されるかもしれないとでも?」
「いやぁ、それはないのでは? 詳しい条件は忘れましたけどかなり厳しめでしたし」
「本当に厳しめの条件なら姉妹二人でダブル聖女にはならないんですよ……。はぁ、とにかく、リーナ様は隠蔽工作というもので聖女の称号やらスキルやらは隠せると?」
「そうなんですよ。だからアリスに魔石を食べさせて隠蔽工作のスキルを習得させようかなぁっと」
「……まさか、あのドラゴンの魔石を食べていたのは、スキルを得るため……?」
「あれ? 言ってませんでしたっけ?」
「言ってないっすよ……食事を抜かれていたからとうとう魔石まで食べるようになったのかとばかり」
そこまでご飯に困っては……いや困っていたか。ミャーの入っていた卵を食べようとするくらいには。
「えーっとですね、理屈は分かりませんが魔石を食べるとスキルをゲットできるんです」
「……えー? 初耳というか、魔石を食べる人が今までいなかったというか……」
そりゃあ魔石ってコンロになったり冷蔵庫になったりするからね。前世で言うと都市ガスやモーターやバッテリーを食べるような感じかな?
「そもそもフィナさんもドラゴンの血を浴びただけでスキルをゲットしたんですから、魔石を食べてスキルをゲットしても不思議じゃないのでは?」
「いや、そもそもあたしって本当にスキルを獲得したんすか? リーナ様の言う『声』なんて聞こえなかったですし」
そういえば、スキルを獲得すると天から声が降ってくるんだけど、聞こえるのが私とアリスだけみたいなんだっけ? 私とアリスの共通点は……父親が一緒なのと、聖女であること?
あの父親が特別な力を持っているとは考えがたいから、聖女適性を持つ人が『声』を聞けるってところなのかな? そう考えればいかにも神託っぽいし。あとは伯爵家がそういう特殊な家系である可能性も?
一応フィナさんのスキルを鑑定してみる。
自動回復に自動魔力回復。これは便利さを私が身をもって知っているスキルだね。
あと気になるスキルは美しきものよ、永遠にかぁ。そういえば、お爺さまが来たりして忙しかったからまだ詳細を確認してなかったなぁ。
そんなことを考えながらスキル名を凝視していると、スキルの詳細が表示された。
・美しきものよ、永遠に:スキル保有者の肉体的、精神的な全盛期を保持する。
ほうほう? つまり、年取っても顔のシワが増えなかったり、風邪引いたりしないとか? 自動回復と被りそうだけど、そういえば自動回復は病気にも効果があるのかどうか分からないからね。持っていて損はないスキルだと思う。
「……フィナさんも中々にヤバいスキル持ってますねぇ」
「げっ、なんすかそれ? あたしそんなヤバいスキルなんて――今、もしかして鑑定してます? 鑑定眼まで持っているんすか?」
「なにせ美少女ですからね」
「ごまかすにしても、もうちょっとやる気出してもらえないっすか?」
じとーっとした目を向けてくるフィナさんに美しきものよ、永遠にの説明をしてみる。エターナル・ビューティフォー。
「げぇ、なんかいかにも面倒くさそうな……。あたしは貴族じゃないから教会でスキル鑑定することもないのがせめてもの救いですか」
「いやぁ、私みたいに鑑定してくる人間がいるかもしれないですよ?」
「メイドの鑑定をする暇人がどこにいるんすか……。あー、でも、万が一に備えて隠せるなら隠しておきたいっすね」
「お、乗り気ですね。じゃあフィナさんもダンジョンで魔石を探します?」
「……ダンジョンって、あのダンジョンっすか? ドラゴンが出た」
「はい」
「あの出入り口は伯爵家の地下ですから、入るのは厳しくないっすか? 公爵邸から伯爵邸に行って、バレないように出入りするとなると……」
「あ、大丈夫です。たぶん好きな場所に出入り口を作れるんで」
「…………。……あー、もうツッコミはいいっすか……」
なぜかフィナさんから諦められてしまう私だった。
「んじゃ、ダンジョンの中で魔物を倒して、魔石を入手するって感じですか」
「ですね。今からだと誰か部屋に入ってきたとき『お嬢様がいなくなった!』と騒ぎになりますから、夜を待って私とフィナさんがダンジョンに向かうって感じで」
「まぁ、お嬢様は護衛も要らなそうですけどねぇ。ついていきますよ、もちろん」
私の実力は認識していながらも、それはそれとして幼女を一人でダンジョンに向かわせるのは避けたいらしいフィナさんだった。良い人だ。
そんな感じで話が纏まろうとしたところで、
「――わたくしも行きますわ!」
ハイッ! と手を上げたのはアリス。
「え? いやいや危ないよ。またドラゴンが出るかもしれないし」
「ならばなおのこと! お姉様だけ危険な目には遭わせられませんわ! しかもわたくしのために!」
「……うーん……」
フィナさんに顔を近づけ、ひそひそと相談を始める私。
(どうします?)
(連れて行くしかないんじゃないですか? ダンジョンボスなんてもう出ないでしょうし)
(でも……)
(それに、置いていくと追いかけてくるかもしれないっすよ? 一人で。そっちの方が危ないんじゃ?)
(むー)
ダンジョンの入り口を閉めておけば……いや無理にこじ開けようとして騒ぎになり、他の人が起きてきちゃう可能性もあるかな? それなら最初から連れて行った方が安全か……。
というわけで。
アリスも連れて、三人+ミャーでダンジョンに潜ることになったのだった。少し気になることもあるしね。
――だって、アリスもドラゴン・ブレスを使えるかもしれないし。ダンジョンの中でなら試せるもの。




