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【受賞・書籍化】魔石喰らいの最強聖女 ~悲劇の運命は『力(パワー)』でなぎ倒します!~  作者: 九條葉月


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閑話2本


 リーナの専属メイドとなったフィナは、一旦リーナから離れて公爵家のメイド長と副メイド長に同行していた。このあと『仕事の引き継ぎ』があるらしい。の、だが。


(これは、もしかしていびり(・・・)っすかねぇ?)


 かつて。伯爵家では新参者のフィナが副メイド長に抜擢されたことを嫉み、先輩や同僚からのいびりや嫌がらせが多発したのだ。


 フィナはBランク冒険者なので物理的に返り討ちにしていたらそのうち収まったのだが……さすがに公爵家で無茶をするのはマズいかもしれない。比較的緩い伯爵家とは違うだろうし、なにより、今のフィナはリーナの専属メイドという立場なのだ。


「――こちらへどうぞ」


 メイド長が案内してくれたのは、おそらく大ホール。家具が一切ない空間にはかなり多くのメイドたちが集まっていた。もしかしたら手空きのメイドが全員集結しているのかもしれない。


 さすがにこの人数から敵意を向けられたら面倒っすねぇ、とフィナがげんなりしていると、メイド長が鋭い目を向けてきた。


「フィナ、でしたね?」


「はい。フィナっす。平民なので名字はありません」


 奇妙な敬語に、平民という名乗り。「お前らが集まっても怯んでないぞ」という意思表示であり、ケンカを売ったも同然だったのだが……メイド長は特に気にした様子はなさそうだった。ちょっと肩すかしになってしまうフィナ。


「フィナ。あなたがうちの執事長にお嬢様の窮状を訴えたそうね?」


「え、えぇ。そうなりますね」


 平民のメイドと、公爵家の執事長・レイス。身分や職責が違いすぎる二人がどんな関係だったのか……。普通なら気になるはずなのに、メイド長はそれを問い詰めてきたりはしなかった。


「――感謝します」


 上品に。まるで主人に対するが如く。スカートを持ち上げながら深々と頭を下げてくるメイド長。


 そんな彼女に遅れることなく、ほぼ同時に他のメイドたちも頭を下げてくる。平民で、新参者でしかないはずの、フィナに対して。


「な、え、えーっと……?」


 普段から人を食ったような態度のフィナも、想定外の状況に戸惑いをその顔に浮かべてしまう。


「貴女のおかげで、お嬢様を救い出すことができました。ですので、感謝を。そして、最大限の敬意をもって貴女をルクトベルク家のメイドとしてお迎えいたします。これからは同志として、共にお嬢様とルクトベルク家を支えていきましょう」


「は、はい……ありがとうございます。そうですね、頑張ります」


 重っ、重ぉおおぉお。自分もっと気楽に働きたいんですけどー? と頬を引きつらせてしまうフィナだった。このまま回れ右して冒険者に戻っていいっすかねーと本気で検討するフィナ。割とリーナから見抜かれていた。


「ではこれより新人歓迎会を開始します」


 メイド長が『ぱん』っと手を叩くと、我先にとメイドたちがフィナの元に殺到した。


「フィナさん! 伯爵家でのお嬢様について教えてください!」

「実の父親に軟禁されていたって本当ですか!?」

「妹を庇って額にケガをしたとか!?」

「あのトカゲはなんですか!? メッチャ可愛いんですけど!」


「お、おおぉおぉおおぅ?」


 メイドたちからの圧に負け、目を回してしまうフィナだった。







 フィナが目を回しているころ。


 ルクトベルク公ガーランドと、その妻セレス。そして二人の息子でありリーナからドン引きされていたガルナ・ルクトベルクはガーランドの執務室に集まっていた。室内には他に執事長のレイスがいるのみだ。


「レイス。伯爵家の調査はどうであった?」


 伯爵家の執事長の協力もあったおかげで、すでに大まかな調査は終了しているようだ。――同じ『貴族』だからこそ不正しやすい場所を理解しているから、でもあるのだが。


 ガーランドからの問いかけに、レイスは一旦お辞儀をしてから報告した。


「はい。予想に反して大きな不正はありませんでした。もちろん貴族らしいささやかな横領などは見受けられましたが……伯爵家を潰すとなると弱いかもしれません」


「……ふん。どうやら伯爵家の執事長は優秀な男だったようだな」


「それはもう。常にリーナ様の味方であったようですから」


「まぁ、よい。潰せないなら潰せないで良しとしよう。――ただし、今の伯爵の首はすげ替える」


「御意に」


 無論、いくら宰相とはいえ他家の当主を交代させる権限などあるはずがない。が、ルイスも苦言を呈することなく了承した。――やり方(・・・)はいくらでもあるということなのだろう。


「あとはリーナか……。セレス、リーナをどう見た?」


 信頼する妻に視線を移すガーランド。


「えぇ、驚くほどに優秀ね。貴族としての常識には疎いようだけど、それは仕方ないわよね。むしろまともな教育を受けてないのにあれだけ聡明なのは――リーナの母(あの子)の血かしらね」


「…………。……その、だな。あまり厳しくしすぎると……」


「分かっているわ。あの子みたいに公爵家を飛び出してしまうのではないかと不安なのよね?」


「う、うむ……」


「でも、公爵令嬢として生きていくなら、ある程度は厳しくいかないといけないわ。分かるでしょう?」


「それは、もちろんだがな」


「――それに、どちらにせよ。リーナ自身が『向いてない』と判断したら飛び出て行ってしまうわよ。どれだけ優しくしようともね。あの子はきっとそういう子だわ」


「むぅ……」


 人の本質を見ることに関して言えばセレスの方が一枚も二枚も上手なので、それ以上何も言えなくなってしまうガーランドだった。


 たとえばこれが公爵家に生まれ、公爵家の資本で育ち、公爵家の人間としての教育を受けてきたのなら『自らの責任を果たせ』と無理強いもできるが……リーナにそれをするのは違うだろう。彼女はあくまで緊急で保護をされたという立場なのだから。


 やはりセレナに口で勝つのは無理だなと判断したガーランドは、続いて息子であるガルナに視線を移した。


 これから義理の娘になるリーナからずいぶん警戒されてしまったようだが……。


「ガルナ。どういうつもりだ?」


 ガルナは愚かなところもあるが、愚者ではない。あのとき、リーナを怖がらせるべきではないことくらい分かっていたはずなのだが……。


「はい、父上。不躾でありましたが、リーナという少女を見極めようかと」


 先ほどのリーナに対するものとはまるで違う、知的な言動をするガルナ。それはもういつものこと(・・・・・・)なのでガーランドも今さら気にはしない。


「見極める?」


「えぇ。不審な男性が接近してきたときどのような反応をするか。逃げるか、泣くか、戦うか……。その対応によって人の本質というものがよく分かりますから」


「…………」


 伯爵家での虐待から逃れてきた人間に、試すようなことをする。セレスもそうだが、こういうところが『愚者ではないが、愚か者』と評価されてしまう原因だろう。


 だが、公爵家に迎えるのだから当然な思考であるかとガーランドは納得する。特に、ガルナにとっては『娘』になる人間なのだから。


「回りくどいことを……。で? リーナはどうであった?」


「そうですね。7歳とは思えぬほどの度胸の据わり方ですね。さらには大の大人に攻撃魔法を放つなど、およそ貴族家のご令嬢とは思えません。まるで抜き身の刃。どうやら伯爵家ではかなり酷い扱いをされてきたようで」


「うむ」


 本来であれば蝶よ花よと大切に育てられるのが貴族令嬢という存在だ。それゆえに表立っての争いを避け、陰険な虐めをしやすくなる――というよりも、真正面からの戦い方を知らずに育ってしまうものなのだが。リーナという少女は、どうやら特異な育ち方をしてしまったらしい。


「公爵令嬢として育てるなら、今からでも矯正するべきでしょう。しかし、あくまで保護対象として、責任を持たせず自由にさせるのならばあのままでもよろしいかと」


「ふむ……」


 セレナとガルナ。二人してリーナのことを『公爵令嬢として育てるのは無理があるのでは?』と判断しているようだ。……それはそれとしてセレナは最低限の礼儀作法を叩き込むつもりのようだが。


 ガーランドとしても、リーナが大人になって貴族以外の道を進みたいというのならそれでいいと思っている。そもそも、今までリーナを放置していたも同然なのがガーランドだ。今さらリーナに大きな顔を出来るはずもない。


 とりあえずは様子見か。


 ガーランドがそんな判断を下そうとしたところで、ガルナが「あっ」と何かを思いついたかのような声を漏らした。


「もちろんリーナには自由にしてもらっていいのですが……私の希望としては、彼女が『女公爵』をするのも面白いかと」


「……女公爵?」


 あまりにも突拍子のない発言にガーランドは顔をしかめるが、


「あら、面白そうね。リーナならお淑やかな貴族令嬢をするより合っているかもしれないわね」


 意外と乗り気な反応を見せるセレナだった。まぁ彼女も『ルクトベルクの影の公爵』と呼ばれているので親近感みたいなものを抱いたのかもしれない。


 二人が賛同してしまっては、冗談ではなく『女公爵』の道が開かれてしまう。


「待て待て。セレナ、まだ公爵家に来たばかりのリーナに無茶な期待をするな。それにガルナ、お前にはちゃんとした嫡男がいるではないか」


「ですが父上。ルイナスは病弱ですし、特殊な事情(・・・・・)もあります。今後、公爵家の跡取りが務まるかどうか……」


「……むぅ」


 孫について様々な報告を受けているガーランドとしては、こちらも無理強いできそうもないのだった。




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