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ころす

 お爺さまが乗ってきた馬車に同乗し、公爵家に戻ることになった。

「おうおうおうおう」

 馬車、けっこう揺れるね? そりゃ前世のサスペンションなんてものはないだろうから少しは覚悟していたけどさ。まさかここまで揺れるとは……。


 ちなみにアリスは馬車の揺れにも慣れているのかキラキラした目で窓の外を眺めていた。両親と共に馬車でお出かけする機会も多かっただろうからね。可愛い。


 しばらくガコガコ揺られていると、なんとなく揺れるタイミングというか揺れ方も分かってきた。慣れてきたので私もアリスに習って窓の外を見る。


「ほー」


 いかにも中世の高級住宅街って感じだった。壁とフェンスに囲まれた広い敷地。噴水まである庭園。お貴族様が住んでいそうな四階建ての屋敷……。いや実際貴族が住んでいるのか。ここ、中級貴族が屋敷を構える場所らしいし。


 元軟禁娘的には王都の地理なんてまるで分かっていないけれど、どうやら王城を中心として同心円状に街が広がっているらしい。王城から一番近い円が上級貴族が住む街、次の円が中級貴族が住む街、って感じに。


 で。私たちは今中級貴族が住む街から上級貴族が住む街に移動しているのだけど……なんか、城壁と城門で区切られていた。金属鎧を着た騎士が馬に乗って警備している。


 ここは異世界だし魔物がいるのだけど、馬車を引いているのは普通の馬だし騎士が乗っているのも普通の馬だった。もしかしたらマジカル☆ホースかもしれないけど。


『みゃー……』


 マジカル☆ホースってなんだよ……みたいなツッコミをされてしまった。私にも分からん。


 ちなみに城門はフリーパスだった。公爵家ってすげぇ。


「おっと、そうだった」


 何かを思い出したっぽいお爺さまが顎髭を撫でた。


「リーナはまだ教会でスキル鑑定をしていないのだな?」


 この世界の子供は7歳になったら教会に行って保有スキルを鑑定してもらう。というのは誰から教えてもらったんだっけ?


 先日の私の誕生日を思い出す。あの父親(クズ)がいきなり私と晩ご飯を食べると言ってきた日のことだ。


「そうですね。たぶんあの晩ご飯の時に話をしてくれる予定だったと思うんですけど――あ、」


 口を噤む私。何も考えずに答えていたけど、これってそのあと『頭にコップを投げられて出血&治療もされずに別邸へ軟禁』と説明しなきゃいけない流れじゃないか。


 別にあのクズを庇うつもりはないけど、もうすでに終わった話でお爺さまを心配させたくはない。傷口もたぶん残ってないし。残っていたとしてもどうせ髪の毛で隠れる範囲だ。

 けれど、口を噤むのはちょっと遅かったみたいだ。


「……何かあったのか?」


 圧が。圧が凄い。なんかもうドラゴンにも負けない圧がお爺さまから私に向けられていた。

 ここでケンカを売ってきているなら実力(パワー)でねじ伏せることもできる。けど、私を心配しているからこその圧だからなぁ。嘘やごまかしをするのもなぁ。


「えーっと、あの父親から晩ご飯を一緒にと誘われて食堂に行ったら、『バケモノめ!』と罵られながらコップを投げられまして。頭に当たって出血を」


「なんだと!?」


「なんですって!?」


 鬼のような形相で私に接近するお爺さまとアリス。そのまま遠慮することなく私の髪を掻き上げ、頭を覗き込んでくる。


「なんと……傷痕が……」


「美しいお姉様に、傷痕が……」


 わなわなと震える二人だった。あれ傷口治ってなかった? 血は止まっていたし痛くもなかったから自動回復(イルズィオン)で治ったものとばかり。いやあのときはまだ自動回復(イルズィオン)のスキル持ってなかったんだっけ? あるいはまだレベルが低くて傷痕が残っちゃったとか?


「……殺す」


「殺しますわ」


 すっくと立ち上がるお爺さまとアリスだった。ちなみにお爺さまはガタイがいいので馬車の天井に頭がぶつかっている。じゃなくて。


「ちょいちょい、うぇいとうぇーいと。待ってください大丈夫ですから」


 あんなクズを殺して家族が殺人犯になるとかバッドエンドなので全力で止める私だった。いいんですよー別にー。今まで気づかれなかったってことは髪で隠れているんですからー。





 なんやかんやで二人を止めることに成功し。


「うむ、話が脇に逸れたな」


 殺人即決を『脇』扱いするお爺さまだった。こわっ。


「リーナがスキル鑑定をしていないなら、教会に申請して鑑定をしてもらわなければならん。貴族がスキル鑑定をしないなどありえんからな」


 そんな感じらしい。出生届を出さない的な? あるいはワクチン接種?


 と、お爺さまがアリスに視線を移した。


「たしかアリス嬢も近々誕生日だったのだよな?」


「そうですわね。とはいえ一ヶ月ほど先ですが」


「うむ、ならばアリス嬢と一緒にやってしまうのがいいか。教会にくれてやる金は少ない方がいい」


 察するに、スキル鑑定するたびに『寄付』をしなきゃいけない感じなのかな? こんな馬車を用意できる公爵家がお金に困っているとは思えないけど……まぁ、お金があることと寄付をすることは別問題かな。


「スキル鑑定ってどんなことをするんですか?」


「難しいことはない。教会が持つ鑑定用の水晶に触れると、あとは勝手に読み取ってくれる」


「おー」


 なんとも異世界チック。なんともテンプレ。そしてお爺さまが寄付を渋るのも分かるね。触れるだけで終わるのにお金儲けしようっていうのだから。


 異世界ものだと教会が悪者なことが多いけど、この世界でもそんな感じなのかなーっと考えていると、


「――よいか、リーナ。そしてアリス嬢」


 ひときわ真剣な目でお爺さまが私とアリスを見る。


「世の中にはスキルを持たずに生まれた人間もいる。だが、儂が若かった頃ならともかく、今はそれだけで差別されることもない。使い所が限られるスキルよりも身につけた教養の方が重要だからだ。スキルがなくても嘆く必要もないし、逆に、スキルを持たぬ人間を蔑んでもいかん。高貴な生まれの者は、心も高貴でなければならんのだ」


「……はい」


「承知いたしましたわ」


 あまりにも真剣。あまりにも真っ当な言葉に深く頷く私とアリスだった。


 まぁ私は色々スキルを持っているから嘆くことはないし、スキルを持っていないくらいで誰かを蔑むこともないけれど。


 …………。


 ……あ、ちょっとヤバくない?

 私はスキルを持っている。

 でも、スキルを持ちすぎているのだ。しかも千里の果てを知る者よ(バーレイグライシス)とか構造破壊(デストラクチャー)なんていう、知られたら騒ぎになりそうなものとかも……。


 あと、懸念事項は闇魔法か。一生牢屋入りは絶対回避。


「ちなみに、スキル以外にも何か分かったりするんですか? 職業とか」


「うむ。職業(ジョブ)や称号、あとは使用できる魔法なども分かるな。7歳で職業を持っている人間など滅多にいないが……。なるほど」


 小さく頷くお爺さま。


「リーナは複数の魔法を使えるらしいな? たしかにそれは珍しく、騒ぎになってしまうだろう。魔導師団からも目を付けられるだろうが……そればかりはしょうがない。隠すこともできないのだからむしろ堂々としておくがいい」


 どうやら「私って複数の魔法使えるんですけど、これって普通じゃないんですよね?」と不安に思ったと勘違いしたみたい。まぁそれも不安と言えば不安なんだけど、問題は闇魔法とか豊富すぎるスキルと職業だよなぁ。特に悪役幼女なんて何とか隠さないと……。


 ……あ、隠蔽工作(ブラエ)を使えばごまかせるかな? 地下室の魔法陣も隠せたし。あとで試してみよう。ミャーなら鑑定も使えるし、隠せているかどうか確認もできるからね。





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