地下室
なんか執事のレイスさんから尋常じゃない圧が発せられているので、さっさと隠蔽工作してしまおう。そしてお爺さまに返却しよう。
というわけで、トイレの個室に入ってから転移スキルを発動。地下室へと瞬間移動した私だった。
ちなみに転移スキルの発動条件としては『一度行ったことがある場所か、今の地点から目視できる場所』という制限があるみたい。もちろん遠くに転移すればするほど魔力も消費しちゃうみたいだけど……まぁ、私には関係ないよね。ドラゴン倒したおかげで保有魔力が凄いことになっているし、レベルアップもしたので自然回復量も爆増したもの。
『みゃ!』
と、ミャーも地下室に転移してきた。ミャーがいきなり消えたら怪しまれるんじゃ……いやまぁそこまで気にしないかな? それに追いかけようもないだろうし。
「えーっと、とりあえずダンジョン入り口を隠して~っと」
迷宮王の指輪を起動すると、空中に半透明の液晶画面みたいなものが浮かび上がった。ステータスとはまた違った感じ。
「どれどれーっと」
テキトーに弄っていると、ダンジョンの組み替え機能みたいなものを発見した。任意の場所に入り口を増やしたり、逆に消したりできるみたい。消すだけならD.P.(ダンジョンポイント)も消費しないようだ。
というわけで。床に描かれた魔法陣の中心にぽっかりと空いたダンジョン入り口を消してしまう。とりえずこれでO.K.かな?
『みゃ!』
ミャーが前足をぺしぺしと床にたたきつけていた。床と言うよりは床に描かれた魔法陣かな?
「え? その魔法陣も隠した方がいいの?」
『みゃ!』
とは言われても、ごしごしと魔法陣を消している時間はないし、道具もない。
『みゃー』
やれやれ、こういうときこそ隠蔽工作を使うんだよ。みたいな反応をされてしまった。姿を隠すものだけど魔法陣も隠せるの?
まぁ、ミャーに言われたとおりにやってみようかな。
「――隠蔽工作」
私が呪文を唱えると、床に描かれた魔法陣が揺らめき、消えた。いや見えなくなったのかな?
理屈はよく分からないけど、とりあえずこれで良し。
あまりトイレ時間が長いとレイスさんに疑われてしまうので、私はもう一度転移スキルを発動して個室に戻ったのだった。……なんかこう、正体を隠して活躍するヒーローっぽくない今の私?
『みゃー……』
トイレはないだろトイレは、みたいな顔で呆れられてしまった。うんまぁそうだよね。
◇
応接間に戻り、お爺さまたちを伴って寝室へ。そして本棚のギミックを使って地下への隠し扉を開ける。
「ほぉ! このような隠し扉を見つけるとは! やはりリーナは天才だな!」
お爺さまが祖父バカを発揮していた。なんかムズかゆい。
灯火を発動して明かりを付け、階段を降りる。
地下に到着すると、お爺さまとレイスさんが興味深そうに室内を見渡していた。
「ほぉ……? 何とも奇妙な空間だな? 貯蔵庫にしては規模が小さすぎる」
「当主の緊急避難場所でしょうか?」
「ふむ。それであの隠し扉か。しかしいくら何でも小さすぎるのではないか?」
「それは上級貴族と比べるからです。中級貴族ならばこの程度でもおかしくはないでしょう。家族さえ避難できればいいのですから」
「当主であれば使用人たちも隠れられる空間を確保するべきだと思うが……まぁ、そんなものか。さて――」
お爺さまが視線を本棚に移した。
「ふむ。五大魔法の初級から上級まで揃っているのか。豪勢なものだ。リーナはどこまで読んだのだ?」
「全部ですね」
「……全部?」
「はい」
「それは、雷魔法の上級までという意味ではなく?」
「全ての本ですね」
「……こういう本は、才能のない属性は読めないものなのだが?」
「え? そうなんです?」
なにそれちょっとロマンあるね? 選ばれし者しか読めない本かぁ……。
「……全部、使えるのか?」
「使えますよ? 試してみますか?」
「……いや、ここでは危険だからな。公爵家に戻ってからにしてもらおう」
「はーい」
「そ、それはともかく……うむ、闇魔法の本はなさそうだな」
「闇魔法ですか?」
私も使えるんだけど、ここはごまかしておいた方が良さそうな。
「うむ。まぁリーナには関係ないだろうが、闇魔法は禁術。学ぶことはもちろんのこと、関連書籍を保有しているだけで犯罪となる。もちろん、闇魔法使いは一生牢屋行きだ。怪しい人間には近づかないようにするのだぞ?」
「ふへぇ……」
私、闇魔法使えるんですけど? 一生牢屋行きなんです? いやいざとなれば牢屋なんて吹き飛ばせばいいんだろうけど……。あ。でもああいう場所って魔法も使えないのかな? ヤバいかも?
『みゃー……』
お前の魔法がそんな制限でどうにかなるか、みたいなため息をつかれてしまった。もしかして心読みました?
ま、それはとにかく。
闇魔法についてはなんとしても隠さなくちゃなぁと心に決めた私だった。