アリスの処遇
地下室へはあとで案内するとして。まずは今後の話をすることになった。
ちなみに今応接間にいるのは私、ミャー、アリス、公爵。そして公爵の連れてきた執事さんと、私の後ろには副メイド長のフィナさんがいる。結構な大所帯だ。
「では、公爵」
早速お話を、と切り出そうとしていると、
「――お爺さま、だ」
「へ?」
「儂のことはお爺さまと呼びなさい」
「…………」
真顔で何を言っているんだこの人は?
公爵の後ろに控える執事さんにちらりと視線を移すと……彼は、必死に笑いをこらえていた。あ、やっぱり笑っていい場面なんですね?
えーっと……。なんだかこのままだと話に入れなさそうだったので、さっさと呼んでしまうことにする。
「では、お爺さま。今後のお話を」
「うむうむ」
お爺さまは嬉しそうに何度も頷いてから本題に入った。
「証拠が集まり次第、国王に伯爵家の取り潰しを進言する。問題はあるか?」
「あの両親がどうなろうと構いませんが……アリスはどうなりますか?」
「……ふっ、まず心配するのが妹のことか……。そうだなぁ。通例なら親戚の家へ養女に出すか、修道院に預けるのが定番となるな」
通例。
つまり、他にも道がある。それに気づいてみせよ。と、言いたいのだと思う。
そっちがそういうつもりなら、こっちだって遠慮はしない。
「親戚の家でも、修道院でも構いません。――アリスが行くところに、私も付いていきますから」
「ほう?」
お爺さまはニヤリと笑ってみせ、
「お姉様!?」
私の隣に座っていたアリスが私の腕を掴み、左右に揺さぶってきた。
「いけませんわお姉様! お姉様は公爵家に行くか、冒険者になりませんと!」
「おうおうおうおう……」
容赦なく揺さぶられて視界がぐわんぐわんな私だった。
そして。
アリスの『失言』に、公爵は気づいたようだ。
「冒険者、とな?」
「あ゛」
やっと自らの失言を認識するアリスだった。そういうところも可愛いぞ?
「……リーナよ。おぬしは冒険者になりたいのか? それが『夢』なのか?」
「なりたいと言いますか、生きるためには冒険者になるくらいしかないですし? 私の夢は寿命まで生き延びることですね」
「…………くっ、7歳の子にここまでの覚悟をさせるとは……あのクズめ……」
まぁ、アレがクズであるのは否定しませんけど。むしろ積極的に肯定していきますけど。
「つまり、平穏無事に生きられるなら、冒険者にならなくてもいいのだな?」
「んー、どうでしょう? 冒険者ってなんか楽しそうじゃないですか?」
「……その歳で冒険者に憧れるのは否定せんがな。誰しもそういう時期があるものだし」
およ? もっと頭ごなしに否定されると思ったのに。意外な展開だ。
そしてなんか『若さ故の過ち』っぽい扱いをされているような? うーん、そんな反応をされると冒険者の道を強弁するのもちょっと恥ずかしくなってくるような?
『……みゃー』
扱いやすい女だなぁ、みたいなジト目を向けられてしまった。
私がミャーに「何かねその反応は?」と無言で圧を掛けていると、お爺さまが少しわざとらしい唸り声を上げた。
「うーむ、しかしなるほど。アリス嬢をぞんざいに扱うと、リーナまでどこかに行ってしまう可能性があるのか。リーナの実力であれば冒険者であっても問題なく生活できるだろうしなぁ。これは参ったのぉ」
うわぁ、なんてわざとらしい説明セリフ。後ろに控えている執事さんはもはや呼吸困難になりそうなくらい笑っている。あれで声は漏らしていないのだからプロの執事って凄いね。……いやプロ執事ならそもそも笑わないかな?
「――よかろう。アリス嬢は一旦親戚の男爵家に預け、その後に儂か息子の養子に迎えよう。リーナの『妹』であれば、息子の養子にした方がいいか?」
お爺さまの息子、というと私の叔父さんになるのかな?
「……なんか、ややこしくないですか?」
普通に直接養子にすればいいじゃん、と思ってしまう私だった。
「ははは、そう言うな。潰れた伯爵家から直接娘を奪うのでは外聞が悪いのでな」
まぁ確かに。私は孫だからいいけど、アリスには血縁関係がないからなぁ。大義名分とか貴族は好きそうだし。「娘が欲しいから伯爵家を潰したんじゃないか?」とかの噂が立っても嫌だしね。
ふむ、とお爺さまが顎髭を撫でた。
「そうだな……。引き取ったリーナからアリス嬢の優秀さを聞き及び、養子に迎えることにした。ということにしておこう。まだ幼いリーナが妹と離ればなれになるのを可哀想に思って、という理由も付け加えれば完璧だな」
「はぁ、まぁ私はいいですけど……アリスはどうかな?」
「はい! わたくしはお姉様と一緒にいられるなら!」
うちの妹が健気で可愛すぎる件。