ぎゃー
「ぎゃー!?」
「ひぃい!?」
「ぎゃー!?」
私、アリス、フィナさんはそれぞれ絶叫した。内側から爆ぜたドラゴンの血やら生肉からが降り注いできたためだ。
生肉が顔に当たって『びちゃ』っとするし、滝のような血でビチャビチャだ。まだ結界を張っていたミャーだけが無事なのが恨めしや。
「うっへぇ……」
もう服なんてビチャビチャで着衣水泳をした直後みたいになっているし、当然靴の中までも血まみれ。もはや全身で血を浴びていないところなんてない有様だった。
「ひぃ、クサいですわぁ……」
アリスも涙目になってしまっていた。あーあ、せっかくの綺麗な金髪が赤黒く……。普通の貴族令嬢は血を見ることなんてないし、動物を捌く経験などあるはずもない。そんなアリスの初めての血体験が全身ビチャビチャというのはかなり可哀想だった。
≪≪≪ドラゴンの血を浴びました。各種ステータスが大幅上昇します≫≫≫
と、そんな声が頭上から降ってきた。いつものように私の上から。そして、アリスとフィナさんの頭上からも。
「え!? え!? 何ですのこの声は!?」
戸惑うアリスと、
「へ? 声っすか?」
アリスの反応に、戸惑うアンナさんだった。え? 天からの声が聞こえる人と聞こえない人がいるの?
≪≪スキル・自動回復を獲得しました≫≫
≪≪スキル・自動魔力回復を獲得しました≫≫
これはアリスとフィナさんの頭上からだけ。私はもう持っているからね。
≪≪≪スキル・美しきものよ、永遠にを獲得しました≫≫≫
お? このスキルは初めてかも? 私の頭上からも聞こえたし。
どんなスキルかなー? と確認しようとしたけど、次々に声が振ってきてタイミングを逃してしまう。なんか凄い勢いで各種レベルが上がったり進化したりしていったのだ。
え~っと、う~んと、いっぱいありすぎて……。
……よし! 今日は疲れたから、確認はまた後日にしようかな!
『みゃー……』
なぜか呆れられてしまう私だった。いや私ってさっきマジで死にかけたんだけど? もうちょっと労ってくれてもいいんじゃありません?
「まぁいいか。とりあえず、血を綺麗にしようか」
アリスに対して浄化の魔法を掛けてあげる私。血は穢れ判定なのかアリスの身体はすぐに綺麗な状態に戻った。もちろん、衣服もだ。
続いてミャーとフィナさん、そして私に浄化を掛ければ洗濯(?)終了だ。
さーて、今は真夜中なのだし、さっさとアリスを部屋に戻さないと。なぁんて考えていると、
『みゃ!』
早く早く、とばかりにミャーが私のスカートを甘噛みし、どこかへ引っ張っていこうとする。
ミャーが向かう先にあるのは……黒いドラゴンの死体?
え?
これ、まさか。魔石を食べる展開?
『みゃ!』
ミャーが指差すというか尻尾差す先には、ドラゴンの魔石っぽいものが。
でも、なんだか砕けているね?
魔石とは心臓付近にあるものっぽいし、先ほどの最上級雷魔法は心臓を狙って放った。つまりは至近距離で攻撃を受けたのだから、その拍子に砕けちゃったのかな?
いやまぁ、砕けたとはいえそこはさすがドラゴンの魔石。前世で言うところの軽自動車くらいの量が積み上がっているのだけど。
『みゃ!』
食べろってこと?
この量を?
『みゃ!』
なんだかとっても圧が凄い。食べないなんて選択肢は最初から表示されていないような……。
いやでも、この量はなぁ。さすがになぁ。7歳の胃袋には入らないでしょう物理的に。
とりあえず、手頃な大きさの魔石を口に入れて、舐め舐め。ころころ。舐め舐め。
うん、こりゃあ何日経っても終わらないわ。
「……アリスも、食べてみる?」
『みゃ!?』
ミャーが驚愕の声を上げる。いや、大丈夫、ただの冗談だから。真っ当な貴族として教育を受けてきたアリスが魔石を食べるわけ――
「――お、お姉様がおっしゃるのでしたら!」
なんか知らないけど決死の表情で。魔石を手にして口に含んでしまうアリスだった。
え? もしかして私のせい? 私が言うのならって、いつの間にそこまで好感度(?)が上昇していたのかな?
「ちょ、ちょっとアリス様!? 石なんて食べたらお腹壊しますよ!?」
真っ当な意見で止めようとするフィナさんだった。それはいいんだけど私が食べたときは止めませんでしたよね?
『みゃ』
そりゃお前なら食べても平気だと思われたんだろ、みたいな声を上げるミャーだった。失敬な。
と、私とミャーがそんなやり取りをしていると、
「――きゅう」
ばったーんと倒れてしまうアリスだった。なんか顔が青いというか紫というか。全身が痙攣しているというか。毒っぽい症状というか。
あー、アリスって解毒系のスキル持ってないのかー……。
「あ、アリス様ぁ!?」
「か、回復! 回復魔法!」
大慌てで魔法を掛ける私だった。
『みゃー』
わざわざ二本足で立ち上がり、肩をすくめてみせるミャーだった。ちょっと、呆れてる暇があったら回復魔法手伝ってくれません?