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【受賞・書籍化】魔石喰らいの最強聖女 ~悲劇の運命は『力(パワー)』でなぎ倒します!~  作者: 九條葉月


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和解と


 今日のレベリングも無事終わり。


 ミャーと一緒にオブジェクトを使い、初階層に戻ると……誰かがコウモリの魔物に襲われていた。


 大した魔物じゃないので初級の雷魔法で薙ぎ払ってから襲われていた人たちに近づくと――あれ? フィナさん? それに、アリス? なんでこんなところに?


 いや私が寝泊まりしている部屋から地下への隠し階段は開けっ放しだから来られることは来られるのだけど。今、真夜中だよね? なんでアリスが別邸に? フィナさんは付き添いだとしても……。


 ……あー。

 ピンときた私である。


「アリス、怖い夢でも見た?」


「そ、そ、そんなことありませんわ!」


 アリスは否定するけど、多分そうなんだろうなぁとお姉ちゃんセンサーが語っていた。


「お、お姉様は何をしていますの……? ここは……? そのトカゲは何ですの……?」


 トカゲ。

 ミャーを見ながらトカゲ発言をするアリスだった。ま~トカゲに見えないこともないのかな? トカゲにしては首が長すぎるとは思うけど。


「あー、ミャーは私の親友というか、戦友というか……駄目な()を叱ってくれる妹というか」


『……みゃ~』


 私からの評価が気に入ったのか照れるミャーだった。


「……お姉様の、妹、ですの?」


 なんだか目つきを鋭くしてミャーを睨み付けるアリス。ちょっとー、ミャーって結構武闘派だから危ないよー?


『みゃあ!!』


 やんのかこの野郎、みたいな感じにアリスを威嚇するミャー。


「ぴぃいい!?」


 突如として吼えられて涙目になるアリスだった。まぁうちには犬や猫もいないから『吼えられる』という行為に慣れていないのかもね。


『みゃあ!!』


「な、何ですか何ですか!?」


 アリスを追いかけるミャーと、逃げるアリス。なんだろう、なんか平和だね。


 おっと、ついほのぼのしてしまった。


 ミャーとアリスはとりあえず置いておいて。私はまだ戸惑っているフィナさんに近づいた。


「フィナさん。今日はなんでまたこんなところへ?」


「あ、そうでした。実はですね、アリス様がリーナ様にお話があるとのことで」


「お話?」


「えぇ。アリス様、やっと自分の行いがヤバいと気づいたみたいで」


「おぉー」


 むしろこんなに早く気づいてくれたのかって感じだ。まだ7歳だというのに。私の妹、天才なのでは?


「お……お姉様……」


 ミャーに追いかけられ、へろへろになったアリスが近づいて来た。ちなみに散々追いかけまして気が済んだのかミャーは満足げな顔だ。


「お、お姉様に……お話ししたいことが……」


「お話? まぁ、息を整えてからでいいから」


「は、はい……」


 しばらく深呼吸していたアリスは、意を決したように頭を下げてきた。


「――お姉様! わたくしを! ぶってください!」


「……はいぃ?」


 なんで? なんでそんな話に? 私に可愛い妹を叩く趣味はないよ?

 あ、もしかしてアリスの趣味? 7歳にしてなんて倒錯した趣味を……。いやしかし妹の趣味であるなら受け入れるべき?


 私が真剣に悩んでいると、フィナさんが割り込んできた。


「いやいやアリス様。過程をすっ飛ばしすぎですって」


「でも! お姉様を虐めていたのですから! お姉様に虐めてもらいませんと!」


「……んー?」


 私を虐めていたから、だって? つまり、目には目を歯には歯を的な? アリスに報復して満足しろみたいな? それにしたって平手打ちはやりすぎじゃない?


「……いや別に気にしてないけど?」


「でも!」


「それに、あの父親と母親(クズ共)に比べればアリスの言動なんて可愛いものだったし」


「――ひっ」


 私がついつい本音を漏らすと、なぜか青い顔をして一歩下がってしまうアリスだった。


「リーナ様。顔が怖い。怖い顔してるっす」


 おーよしよしとアリスを抱きしめ頭を撫でるフィナさんだった。羨ましい。


 でもまぁアリスが自身の言動を反省して、これからは普通の姉妹として交流したいというのなら大歓迎だ。今までのことなんて水に流してしまいましょう。そもそもまだ7歳でしかないアリスを恨んでもしょうがないし。――大人になってもアレなアイツらは論外として。


「じゃあ、仲直りの握手ね」


 私が右手を差し出すと、アリスは『こてん』と首をかしげた。


「あくしゅ、ですの?」


 あれ握手知らないの? と、今度は私が首をかしげると、


「いやリーナ様。この世界じゃ握手は一般的じゃないんですよ」


 フィナさんがそんなことを教えてくれた。いつもいつも、フィナさんは色んなことを教えてくれるのだ。


 ……ん? この世界?


 私がますます首をかしげている間に、フィナさんはアリスに『握手』の意味を教えてくれた。おずおずと、戸惑いながらもアリスが右手を差し出してくる。


 アリスの手を、しっかりと握る私。

 小さな小さな、子供の手だ。

 いやそれを言ったら私も同じくらいの大きさなんだけど、そういうことじゃなくて……やはり、まだまだ大人から守られるべき。そんな小さな手だった。


 うん、これで私たちは仲直りだ。誰がなんと言おうと、今日からは仲良し姉妹だ。文句があるヤツがいたら掛かってこい――



≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫



「わぁ!?」


『みゃあ!?』


「な、な、なんですの!?」


「魔物!? 魔物っすか!?」


 大地を揺るがすかのような咆吼をその身に受け、大混乱に陥る私たちだった。


 この鳴き声。前に一度聞いたことがある。――おそらくは、ダンジョンボスのもの。


 たぶんダンジョンボスは最下層にいると思うし、何度か咆吼は聞こえてきたのだけど……なんだか今までで一番大きな慟哭じゃない? なんでアリスたちがいるときに……。


 いや、でも、最下層に行かなければ危険はないはず。


「アリス、戻ろう。ここは危ないよ」


「そ、そ、そうですわね。帰り――」


 ましょう。とは、続かなかった。私たちの周辺に突如として魔法陣が出現したからだ。


「な、な、なんですの!?」


「魔法陣!? ――転移魔法!?」


『みゃ!』


 ミャーが『逃げるぞ!』と言ってくれたけど、それはちょっと遅かった。そもそも逃げ出したところで転移魔法を回避できるか分からなかったけれど。


 とにかく。

 誰一人として望まないまま……私たちはどこかへと転移させられてしまうのだった。





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