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閑話 公爵・2

 ――ルクトベルク公爵家。

 つまりは、リーナの母親の実家にて。


 リーナの祖父、ガーランド・ルクトベルクは忌々しげな顔で報告書を読み込んでいた。


 これでもう三回目の読み返し。

 それだけ報告内容が信じがたいのか、あるいは……自らの失策を悔いているのか。


 どういう心境かはイマイチ分からないが、重苦しい雰囲気であるのは確かであった。


「旦那様。いかがいたしましょう?」


 ルクトベルク家の家令(執事長)・レイスが確認をする。ガーランドがどうするか決断しなければ、レイスとしての動きようがないからだ。


「……こんな、こんなことが、許せるか……」


 叫ばなかったのは公爵としての意地か。あるいは怒りが突き抜けすぎて逆に冷静となってしまったのか。


「……レイス。この報告書、確かなのか?」


「はい。以前から交流がありました伯爵家の副メイド長と、伯爵家の家令からの報告をまとめたものですので。事実かと」


 無論、伯爵を貶めようとする別勢力の回し者である可能性も十分にある。が、その辺りもすでに調査済みであるし、副メイド長(フィナ)家令(セバス)の人間性も信頼するに値すると判断したレイスだ。


「満足な食事を与えず、服も着回し、令嬢としての教育を受けさせず、さらには先日の誕生日から別邸に軟禁しているだと……?」


後妻の娘(アリス嬢)とはずいぶんと扱いが異なるようで」


「…………」


 レイスからの視線に批難が込められているような気がするガーランドだ。「ルクトベルク家の血を引く娘に酷いことをするはずがない」と判断し、あまりに気に掛けてこなかったのはガーランドなので仕方のないことなのであるが。


「…………」


 ガーランドは遅すぎた。

 判断を誤った。


 ――だからこそ、ここからは間違えるわけにはいかない。


「出立の準備をしろ。夜が明けたら、伯爵家に乗り込む」


「リーナ様を確保なされるのですか?」


「当然だ。ルクトベルクの血を引く孫がこのような目に遭っているのだぞ? 祖父として、何としても保護しなければならぬ」


「承知いたしました」


 いくら祖父とはいえ、貴族家の令嬢を勝手に保護することは法的にも難しい。だが、軟禁までされているリーナの現状であれば話は別だ。


 すでに伯爵家の家令やメイドたちからも証言を得ているし、ここでガーランドが乗り込み、別邸に押し込まれているリーナを確保すれば動かぬ証拠となる。たとえ国王陛下でも文句を言うことはできないだろう。


 あとは……。


「リーナ様を保護されたあと、伯爵家はいかがなされるおつもりで?」


「無論、潰す」


「それはまた」


 過激なことだとレイスは少々呆れてしまう。

 当然のことながら、いくら現役公爵で、この国の宰相を務めている人間とはいえ、中位貴族である伯爵家を潰すことなんてできはしない。不正――つまりは王家に対する裏切りを行ったならとにかく、『虐待』は家族の問題として見なされてしまうからだ。


 が、それは正面から潰そうとしたときのこと。


 たとえば。

 リーナに対する扱いの悪さにガーランドがご立腹であるとか。伯爵家を潰すおつもりだ、とか。そういう『噂』が流れれば、伯爵家と交流を持つ家はいなくなるし、伯爵領との交易も激減するだろう。なぜなら、ガーランドを怒らせればルクトベルクの権力と広大な領地を敵に回すことになるのだから。


 もしかすれば、伯爵家を取りつぶせるほどの不正が都合良く(・・・・)明るみになるかもしれない。そうなれば別件という形で潰すことができるだろう。


 ガーランドに敵対する勢力が伯爵家に味方するかもしれないが……可能性は低いはずだ。家を取りつぶすほどではないが、それでも『娘に対する虐待』は外聞が悪すぎる。わざわざ味方に引き入れようと考える者はいないだろう。


 結論とすれば。公爵であり宰相でもあるガーランドが『潰す』と明言した以上、伯爵家は近いうちに潰れることになる。それに関しては自業自得でしかないが……。


(伯爵家には、リーナ様と同い年の妹がいたか)


 7歳。誕生日を迎えていないなら6歳か。そんな歳で実家が取りつぶされ、平民に落とされるのは少し可哀想だな、と考えてしまうレイスだった。


 まぁ、だからといって何かをするつもりもないのだが。



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