千里眼
「……んー?」
目覚めるとベッドの上だった。
毒でダウンしたあと。まだ痺れる身体に鞭を打って部屋まで戻ってきて。ベッドの上にダイブしたのは覚えているのだけど……。そのままかなりの長時間眠ってしまったみたい。眠りすぎたとき特有のだるさがある。
「時計くらい欲しいなぁ。でも、そもそもこの世界ってもう機械式時計はあるのかな? ……ん?」
ベッドの脇に置いてあるバスケットに気づく私。なんだこれ?
まさか爆発物でもあるまいとバスケットを開けてみると――中に入っていたのはいくつかのパンとチーズだった。
「アリスかな?」
こういうことをするから憎みきれないんだよなーっと思ってしまう私だった。
『みゃ?』
ベッドの側でうとうとしていたミャーが『どうした?』とばかりに首を持ち上げた。
「ん? ほら、アリスがご飯を持ってきてくれたみたい。やっぱり今はアレだけど心根は優しい子なんだろうね」
『……みゃー…………』
チョロい女だぜ、みたいな顔をされてしまう私だった。なぜだ……。
◇
久しぶりのパンとチーズでご機嫌な私である。
『ミャー……』
チョロい女だぜ、みたいな以下略。
ミャーの反応には納得できないけれど、毒状態も回復したので今日も元気に地下ダンジョンだ。
階層間を移動できる水晶に触れ、種を飛ばしてくる植物がいた階層へ。しばらく歩いているとやはり種が飛んできた。
「ん~?」
自動防御で防げるとはいえ、結界に当たるとそこそこの音がしてうるさいので手近な岩に身を隠す。しばらくすると射撃が止んだので岩陰から顔を出して確認――
「わぁ!?」
顔を出した瞬間を狙い撃たれた。いやいや早すぎない? これだけの速度だと、もう私が顔を出す直前から撃っているのでは? いわゆる偏差射撃。相手の未来位置を予想した射撃だ。
『みゃ!』
ミャーが私の服を引っ張りながら、真横を指差した。……ん~? 何にもない草原だけど……? ミャーには何かが見えているのかな?
こういうときは鑑定眼だね。
というわけで、スキルを発動してミャーの指差した辺りを見る。もちろん何も見えないけど、それでも見る。見る。見る……。
≪――スキル・鑑定眼のレベルが上昇しました≫
「お?」
なんか、空間が揺らめいたような? 蜃気楼というか、一枚ベールが掛かっているというか……。
その揺らめきに意識を集中して、さらに見る。見る。見る……。
「おお?」
なんか、視えた。
何もないはずの草原。しかしそこに、臥せるような態勢でこちらを伺う……犬のような存在が。
「――雷よ、轟け!」
雷魔法をぶち当てると、その魔物は叫び声すら上げずに感電して、倒れた。
もしかして、あの魔物が植物に位置を教えていたとか?
『みゃ』
ミャーが頷いたので、そうみたい。なんという連係プレイか。
私が感心していると、天の上から声が振ってきた。
≪――特定条件・『見えないはずのものを視る』を達成しました。スキル鑑定眼は千里眼に進化します≫
千里眼? なんか便利そうなスキルが。
どれどれとステータス画面を起動して、スキルの詳細を確認。……へぇ。ここから離れた場所を視ることができるスキルかぁ。レベルが上がると音も聞こえるようになるっぽい。
つまり、たとえば別邸にいながらも本邸の中の様子を確認できるようになると? う~ん便利だね。
さっそく何か試してみるかなと思っていると、私が隠れている岩に種が着弾した。丁度いいからあの植物(?)で試してみるかな。
目を閉じて、スキル千里眼を発動。瞼を閉じているのに別の場所の光景がハッキリと見える。そんな不思議な感覚。
少し俯瞰した状態で、こちらに花弁を向けて射撃態勢を取っている植物たち。
それらに狙いを定め、炎魔法を撃ち込んだ。
「――焔よ、燃えよ!」
途端に燃え上がる植物たち。狙い撃ったおかげで周辺の草への延焼も最小限だし、それでも燃え移った分は水魔法を使って消火することができた。
「おぉー! これ、すっごく便利!」
そのまま私は千里眼で植物の排除を進めて……そうしていうるうちに身を隠していた別の魔物たちも発見し……この階層にいる魔物すべてを排除することに成功したのだった。
≪――千里眼のレベルが上昇しました≫
≪――千里眼と索敵のレベルが一定値を超えました≫
≪――スキルの複合進化を開始します≫
≪――スキル・千里の果てを知る者よを獲得しました≫