咆吼
ダンジョンに入ってから水晶を見つけたのは初めてなので、たぶんこの水晶を基準として各階層の水晶まで移動できるようになるのだと思う。
「じゃあさっそく……ポチッとな!」
迷うことなく水晶に触れる。
もちろん水晶なのでボタンではない。けど、ノリと勢いで効果音を口にする私だった。
「おおお!?」
目の前の空間が『ぐわん』とねじ曲がり、次の瞬間には――草原が広がっていた。
「……え? ダンジョンだよね? 地下だよね? まさか別の場所に転移させられちゃったとか?」
とりあえず、索敵を起動して今どこにいるのか確かめて――
≪――ガァアアアァアアアアァアアアッ!≫
その咆吼に、空気が振動した。
大地すら揺れたような気さえする。
「な、なになに!? 敵!? 魔物!?」
『み゛ゃあっ!?』
思わずミャーを抱きしめると、ミャーはカエルが潰れたような声を出した。え? なにもう攻撃された? ……抱きしめたときに私が首を絞めちゃっただけみたい。
『み゛ゃっ!』
ミャーに引っ掻かれてしまった。ごめんってば~わざとじゃないんだよ~。
平謝りするとミャーは許してくれた。今後の力関係が決定した気がしないでもない。
「と、ところで、さっきのは地震かな? まさか魔物の鳴き声じゃないだろうけど……」
『みゃっ』
こくりと頷くミャーだった。
「……地震ってこと?」
『みゃ』
クビを横に振るミャー。
「……まさか、魔物の鳴き声?」
『みゃっ』
頷くミャーだった。マジかよ……鳴き声だけで地面が揺れるってどんな大きさと肺活量なのさ? さすがにそんなのは倒せない――
――いや、倒す必要はないのか。
あれだけデカい鳴き声だとたぶんダンジョンボスとかその辺だろうけど……別に私はダンジョン攻略を目指しているわけじゃないし。これから家を出て、冒険者として生きていける程度のレベリングができればいいのだから。
たとえ強力なダンジョンボスがいようとも、最下層まで潜らなければ問題はないはずだ。
なので今日の目的である上級魔法の練習を始めることにする。
「これだけ広いなら遠慮なく上級攻撃魔法をぶっ放せそうだね。まずは一番得意な雷魔法から――」
『――ガァアァッ!』
「今度は何さ!?」
再び響いてきた咆吼に思わず突っ込んでしまう私だった。いや先ほどの地面を揺らすほどの慟哭とは比べものにならないほど小さな鳴き声なんだけどね。
探知魔法を起動していたので警戒アラームが鳴る。……どうやら私たちの方に向かって赤い点の集団――つまりは魔物の群れが向かってきているらしい。