妹・アリス
「う~ん……」
翌日の夕方。
なんだかまだ怠い私は、ベッドの上で手足を伸ばしていたのだった。まぁ二日連続で魔力欠乏症を起こしたのだから当然かな?
ちなみにミャーは近くの森まで魔物を狩りに行ってくれている。もちろん私が食べる食料確保のためだ。いつもお世話になっております。そろそろスキルなまけ者のレベルが上がりそう。
……よく考えてみれば。近くの森で魔物が狩れるってことは、王都の中に魔物が生息しているの? 半ば軟禁されていた私じゃ詳しい話は知らないけど、結構ヤバいのでは?
「……ま、でも、騎士団がいるだろうから平気かな」
それにミャーが数を減らしてくれているのだし、そんな問題にはならない。はず。というか王都の心配をするより自分の状況を何とかしろって話だ。早く魔法を習得して別邸から抜け出さないと……。
「お、そうだ。魔力は増えたのかな?」
魔力を使い切ると魔力総量が増えると魔法の教本に書いてあった。二日連続で魔力欠乏症になったから増えていてもおかしくはないのだけど……。
ステータス画面を発動。さっそく確認してみる。
「MPは、1万2,500。……1万2,500?」
最初に見たときは2,500くらいだったから……魔力欠乏症一回につき5,000の魔力増加? あ、でもMPを見る前にも一度魔力欠乏症を起こしていたから、そうでもないのかな?
「そもそも、他の人の魔力が分からないからなんとも……」
誰か鑑定させてくれないかなーっと思っていると、部屋のドアがいきなり開け放たれた。
「――あら! まだ寝ていますのね! だらしのない!」
どこか嬉しそうな声を上げたのは、私の異母妹・アリス。
ふわふわとした金髪が特徴的な美幼女で、将来はたぶん美人になるだろうなーという子だ。うん、今日も可愛い。
ただまぁ、ちょっとやんちゃなのだけどね。
「お寝坊さんは叩き起こすしかありませんわね! ――水よ、流れよ!」
アリスが高々と右手を掲げると……人の握り拳程度しかない、水の球が現れた。
アリスが右手の指に嵌めた子供向けの指輪型補助魔導具。そこに魔力が集まっていることが分かる。
……以前の私は魔法について何の知識もなかったから「そんなものか」と思っていたけれど――なんだか、ずいぶんと発動が遅くない? 私だったらすぐに水を飛ばせるのに。こちらを怖がらせるためにあえてゆっくりやっているとか? いやアリスはそこまで性格悪くないか。
今の私なら余裕で対処できる。結界を張ってもいいし、飛翔で回避してもいい。なんならもっと強力な水魔法で打ち消すこともできる。
でも、私はあえて動かなかった。だっていきなり対処できるようになったら不自然だもの。
あと、正直な話……危険は全くないし。
アリスから放たれた水の球はフラフラとこちらに飛んできて――私の頭に当たって、はじけた。
頭部を中心に水浸しになってしまう私。
まぁ水なんてすぐに乾くし、水入りコップを頭部に直撃させてきた父親に比べれば7歳児らしいイタズラでしかない。
「ふっふっふっ! 無様ですわね! 目は覚めたかしら!?」
悪役令嬢のような高笑いをするアリス。そんなアリスに私は近づいた。ベッドから降りて、怖がらせないようにゆっくりと。微笑みかけながら。
「な、な、なんですの!?」
今までの私とは違った反応だったせいか一歩下がるアリス。
うん、これまでの私なら抗議のために無言で睨み付けていたところ。だけど、それはあくまで前世の記憶を思い出す前の私。自分のこともアリスのことも客観視できなかったからこその態度だ。
ふふん、7歳の美少女が水を掛けてくるだなんて可愛いイタズラじゃないか。可愛い妹がやるならなおのこと。前世シスコンで通した私がこの程度で怒るはずがない!
「もー、アリスってばイタズラっ子なんだから~」
私がアリスの目の前まで近づき、つんつんとほっぺを突いてみると、
「ひ、ひぃいいぃいい!?」
なぜか涙目になり、ガクガクと震えだし、脱兎の如く逃げ出してしまうアリスだった。
「きょ、今日のところはこのくらいで許してさしあげますわ!」
なんか、メッチャ悪役令嬢っぽい捨てセリフを吐かれてしまった。