魔石
毒。
とはいえミャーに悪気はなさそうだった。というか本人(本ドラゴン)も普通に食べていたしね。
そう。ミャーも食べたのだ。明らかな毒鳥を。バクバクと。
あの鳥はデカかったので数日間は飢えなくて良さそうだな~と思っていたのだけど……実際はミャーがかなりの量を食べ、もうなくなってしまっていた。
ま、元々ミャーが獲ってきたものなのだからミャーが食べて当然なんだけどね。
『みゃっ!』
また獲ってくるから任せて、とばかりに胸を張るミャーだった。やっぱりミャーが私を育ててない? 親代わりの立場を交代するべきでは?
さーて、あとは剥ぎ取った羽とか、内臓とか、食べ残した骨の処理だけど……。
『みゃっ!』
「え? ミャーが食べてくれるの?」
『みゃっ!』
返事するなりバリバリと骨を食べ始めるミャーだった。お腹壊さないのかなぁ? ドラゴンだから平気かな?
ちなみに。さすがに羽毛は食べずに火炎放射(弱)で焼き払っていた。まぁ栄養もなさそうだしね。
そうして。あの鳥(毒)で残されたのは心臓付近から出てきた宝石だけになったのだけど。
『みゃっ!』
ミャーが宝石を口でくわえ、私の口に押しつけようとする。
「え? もしかして、食べろってこと?」
『みゃっ!』
「いやいや無理でしょ。頭の骨をバリバリいけるミャーならとにかく、人間に宝石は噛み砕けないって」
『みゃっ! みゃっ!』
説明しているのにミャーは宝石を押しつけ続けてきて。仕方ないので口の中に入れてみる私。
いや、ミャーがここまで押しつけてくるのだから意外と噛み砕けたりして?
軽く、噛んでみる。
「……痛っ」
歯が、歯が負けそう。これは無理だ。無理無理。絶対無理。
でも、じーっと見つめてくるミャーの手前、吐き出すのも悪いしなぁと舌の上で転がしていると――ちょっと、味が出てきた。
もしかして、飴みたいに溶けてきた?
舐めているだけなので空腹は満たされないけど、なんだか身体がぽかぽかしてきたような?
≪――スキル・魔石喰らいを獲得しました≫
……魔石?
魔石って、冷蔵庫やコンロに付いていた、あれ? 元々は魔物の『核』になっているという?
なんか、今私とんでもないものを食べてない? 大丈夫? ……毒分解のスキルがあるから平気かな?
一瞬吐き出そうかなーっと思ったけど、ミャーがじぃーっと見つめてくるのでそれもできない私だった。舐め舐め。ころころ。舐め舐め……。
そうして口の中で魔石が溶けて消えたところで、
≪スキル・飛翔を獲得しました≫
「え?」
なに? 魔石を食べるとスキルを獲得できるの? もしかしてこの世界の常識――そんなわけないか。普通の人間は魔石なんて食べないし。コンロや冷蔵庫に使えるなら尚更だ。
ステータス画面で獲得したばかりのスキルを確認。毒分解に、飛翔ね。あの鳥の毒はよほど強かったのかもう毒分解のレベルは4になっていた。
もう一つのスキル、飛翔。やはり空を飛べるスキルなのでは? そんなの人類の夢じゃん! ちょ、ちょっと試してみようかな? 魔力を抑えれば天井に激突とかしないはずだし。
一応厨房から出て、一番天井が高い玄関ホールへ移動。
「ぼ、飛翔!」
…………。
………………。
……………………。
……あれ?
ぜんぜん飛ばないぞぅ?
……いや、なんか気持ち身体が軽くなったような?
魔力を増やしてみるけど……変化無し。あっれー?
『みゃっ!』
ミャーがどこからか拾ってきた羊皮紙を口にくわえて、私と床の間に入れ、左右に動かした。
うーん? 飛んでいるのかな? 羊皮紙を動かせるくらい。たぶん1cmとか、その程度。
試しに全力で魔力を注ぎ込んでみると、今度はミャーの尻尾の先が通るくらいには飛べたようだった。いや飛んだというよりは浮かんだ、かな。
どうやらレベルが上がらないといくら魔力を注いでも飛べないらしい。
「……地道にレベリングするかぁ」
今までの感覚だと、とにかく使用すればレベルは上がるはず。筋トレ感覚での飛翔を決意する私だった。