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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

雪ふる夜に

作者: Xsara

香菜は、窓の外を眺めながら、降り始めた雪が街を白く染めていくのを見ていた。クリスマスの夜、イルミネーションがきらめく街角で、修司と澪が手をつないで笑い合う姿が頭に浮かぶ。香菜の胸には、鋭い痛みと、どこか温かい満足感が混在していた。

香菜、修司、澪の三人は、物心ついた頃からいつも一緒だった。同じ団地に住み、同じ小学校に通い、放課後は決まってグラウンドでソフトボールをしていた。修司の投げるボールは鋭く、澪の打つ打球は高く弧を描き、香菜はそれを軽やかにキャッチする。三人のリズムは完璧だった。

中学校に上がると、ソフトボールは男女別になった。修司は男子チームへ、香菜と澪は女子チームへ。ある日の練習後、澪がぽつりと漏らした。「修司と一緒にプレイできなくなって、なんか寂しいね」。その言葉に、香菜の心は小さく揺れた。寂しそうな澪の横顔を見つめながら、香菜は自分の胸に芽生えた感情に気づいていた。それは、ただの友情ではなかった。澪の笑顔、髪を耳にかける仕草、汗と土の匂い――すべてが香菜の心を締め付けた。


「私、澪のことが好きだ」。その夜、布団の中で香菜は自分の気持ちに名前をつけた。レズビアンという言葉が頭をよぎり、動揺と同時に妙な安堵が広がった。でも、すぐに現実が重くのしかかる。この気持ちを口にすれば、三人の心地よい関係は壊れてしまう。香菜は、自分の心をそっと押し込めた。

中学二年の秋、練習後のグラウンドで、澪が香菜に打ち明けた。「ねえ、香菜、私、修司のことが好きかもしれない」。その一言は、香菜の胸にナイフのように突き刺さった。笑顔で「え、ほんと? 修司にそんな雰囲気あったっけ?」と返すのが精一杯だった。家に帰り、部屋の暗闇で香菜は泣いた。澪を失う恐怖、修司に奪われるような喪失感が、彼女を飲み込んでいた。

翌日、香菜は修司にさりげなく探りを入れた。「修司って、好きな子とかいる?」 修司は少し照れながら、「まあ、いるっちゃいるかな」と答えた。その瞳に浮かぶのは、間違いなく澪だった。香菜は悟った。二人は両思いだ。


それから、香菜の行動は自分でも驚くほどだった。修司と澪をくっつけるために、グループでの遊園地行きを計画し、席順を調整して二人を隣にしたり、修司に「澪、最近こういうの好きらしいよ」とさりげなく情報を流したり。澪の喜ぶ顔が見たい、修司の優しさなら澪を幸せにできる――そう自分に言い聞かせながら、香菜は二人を後押しした。

クリスマスイブの日、香菜は修司に「今日、澪に告白しなよ」と背中を押した。修司は緊張した笑顔で頷き、澪と二人でイルミネーションの輝く公園へ向かった。香菜は家で待った。時計の針が刻む音だけが響く部屋で、彼女は自分の心と向き合った。澪の幸せを願う気持ちは本物だった。でも、胸を裂くような痛みもまた本物だった。

夜遅く、澪からLINEが届いた。「香菜! 修司と付き合うことになった! ありがとう、香菜がいたからだよ」。そのメッセージを読みながら、香菜は涙をこぼした。悲しみと、どこか不思議な充足感が交錯していた。澪が幸せなら、それでいい。そう思おうとした。

翌日、クリスマスの朝、香菜は修司と澪に会った。二人は少し照れながらも、幸せそうに笑っていた。「香菜、昨日はほんとありがとう」と修司が言う。澪も「香菜がいなかったら、私、こんな勇気出せなかったよ」と笑った。香菜は笑顔で「よかったね、二人とも」と答えた。雪が降り始め、街は静かに白く染まっていく。


帰り道、香菜は一人、雪の中を歩いた。冷たい風が頬を刺したが、彼女の心はどこか軽かった。澪の笑顔は、香菜の心に永遠に刻まれていた。失ったものも大きかったけれど、与えた愛もまた本物だった。香菜は小さく呟いた。「これで、いいよね」。

雪は、彼女の足跡をそっと覆っていった。



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