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9 罪と向き合う

  東の塔に住む少女は重要な人物である。


  ルイカが東の塔に住むようになり、一ヶ月が経過した。

  彼女の女中仲間には異なる部署に移動したと伝えられ、孤児院には王都から離れた場所に仕事でいくことになり、しばらく孤児院を訪ねることができないと、ハリスが説明した。

  孤児院にはルイカが毎月送っていた金額と同額を送った。

  ルイカはそのことをハリスから説明され、恐縮してしまった。そして何かできることがあればと言われ、彼女がしていることは刺繍だ。

  ハリスのハンカチに刺繍を施している。刺繍は淑女の嗜みであるが、孤児院では子供のための服を縫ったり、破れたところがわからないように刺繍をしていたので、模様さえ教えてもらえればルイカにすることができた。


  ハリスやカリティットが東の塔へよく訪れ、賑やかな日々の中、ルイカは自身の力について考えなくなっていた。

  それは同時に自分が犯した罪についても同じで、頭の片隅に追いやられていた。

  それをハリスもカリティットも望んでおり、二人はルイカが穏やかに暮らしていくことを願った。


  その願いが破られたのは、ある手紙だった。

  その日はハリスが忙しくしており、食事を届けると東の塔から彼の執務室へ戻った。

 ルイカは久々に一人で食事を取ることになり、少しだけ寂しく思いながら、パンを手に取った。

  そして小さく折り畳まれた紙を見つけた。

  彼女はハリスからかもしれないと、紙を広げた。


  ルイカの力の暴走で犠牲になったのは二人。一人は彼女に不埒な真似をしようとした騎士。もう一人はその友人だった。

  手紙はそのもう一人の恋人からだ。


  犠牲になった騎士の名はフレッド。恋人の名前はアニー。

 アニーは手紙の中でフレッドがどれだけアニーにとって大切な人か語り、彼の最後を知りたいので一度会えないかと書かれていた。

  しばらく悩んだ後、ルイカは彼女に会うことを決めた。

  東の塔の生活で、彼女はハリスとカリティットが来れない時間帯を把握していた。

 それは早朝であり、その時間に東の塔へ来るように手紙に認め、食器の下に隠すように置く。

 ハリスにはこのことを話さず、階下の護衛にアニーが来たら通すように伝えた。

 彼女が護衛に話しかけるのは初めてで最初は戸惑っていた護衛も、ルイカの真剣の顔に黙って頷いた。

  翌朝、アニーは現れた。

 

「私は生きるのが辛いのです。なぜ彼が亡くなり、私が生きているのか。そして、なぜあなたは大切にされ、穏やかな生活を送っているのか。あなたはフレッドを殺した。なのになぜ平気なの?」


  ルイカは黙って彼女の話を聞いていた。ずっとハリスとカリティットに優しくされ、罪を忘れかけていた。

 こうして糾弾され、彼女は罪を自覚する。

 彼は巻き込まれただけだ。

 ルイカの力の暴走に。

 現にフレッドは、あの騎士を止めようとしていた。だからルイカの力に巻き込まれた。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


  ルイカは謝罪するしかできない。


「私はあなたが許せない。だからせめて一矢報いたい。そして彼と同じように殺されたい」


  アニーはポケットに隠していた小さなナイフを取り出す。そうして、ルイカへ飛びかかった。


  それを彼女は静かに眺めていた。逃げることも、力を振るうこともなかった。


 鈍い音がして、アニーのナイフがルイカの腹部に刺さった。

 刺したほうのアニーのほうが動揺していた。


「ど、どうして?」

「手を、手を離してください。そして逃げて。私が自分で、差したことに、」

「いやあああ!」


  アニーが叫び、その声を聞いた護衛が駆け上がってきた。


「な、なんてことだ!カリティット様を早く呼ばなければ!」


  護衛が慌てて出ていき、ルイカは再度アニーに逃げるように促す。


「私は死んで…当然の、人間だから。あなたには何の、罪も、ないから」


  アニーは恐慌状態で、首を横に振っていた。


「ルイカ!」


  カリティットが医療用具を持って現れる。


「カリティット、なにもしなくてもいい、から。このまま、死なせて」

「バカやろう!そこの女、動くなよ。あとでハリスがお前を処罰する!」

「だ、だめだよ。アニー、になにか、したら、許さない。は、ハリスに」

「話すな!わかったから」


  カリティットはルイカをベッドに運ぶ。その間、ルイカはずっとアニーのことを気にしていて、カリティットが睡眠効果のある薬を嗅がせ、やっと眠りに落ちた。


「アニーとやら。あとで事情は聞かせろ。絶対にそこから動くな!」


  カリティットはアニーを睨み付け、彼女は何度も頷く。


「ルイカ!」


 いつもの無表情はどこにいったのか、蒼白の表情でハリエットが部屋に飛び込んできた。

 血に濡れた床、腹部を刺されてベッドに横になるルイカ、そして手を血に染めたアニー。

 怒りのまま、彼は腰に剣を抜き、アニーに振り下ろそうとした。


「だ、だめ!ハリス!」


 しかし気を失ったはずのルイカが目を開き、ハリスを制した。


「ルイカ!」


 剣を戻して、ハリスはすぐにルイカのベッドに駆け寄る。


「だ、ダメだから。絶対に」

「ルイカ!」

「ああ、わかった。わかった。ルイカ。俺が絶対にハリスを止める。だから、お前は休め」

「私はもう何もしません。だから、ルイカ。お願いです」


 ハリスは泣きそうな声でそう言い、ルイカは安心したように微笑んだ後、動かなくなった。


「ルイカ!」

「ハリス!お前も邪魔だ!出ていけ。いや、その女を見張っていろ!治療は俺一人で十分だ」


 カリティットに苛立った声で言われ、ハリスはルイカのベッドから離れた。そしてアニーを睨みつける。しかしルイカの言葉に従い、剣を二度と向けることはなかった。


 

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