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13 ルイカの決断

 タラディンの城にマスリーンの使者が訪れたのは、それから十日後だった。

 両国は和平協定を結んでいるが、使者は国境で国境警備団で迎えられ、それから護衛という名の監視を付けて、王都へ案内された。

 使者が国境から王都に入るまでに、城では使者を迎え入れる準備を仕事進めていた。


 宰相の子息であるジェイクは国境に入ってからずっと緊張し続けており、早急にこの任務が終わることを願っていた。

 前王の遺児あり、現国王ヒューゴの妹であるルイカ、彼女がマスリーンに帰国する意思がなくても、一度拝見できればよい。宰相は息子に説明した。


「タラディン国王陛下、マスリーン宰相の子、ジェイクでございます。この度はご拝謁の機会を賜りましてありがとうございます」

「そう硬くなるな。ジェイクよ。書状を見せよ」


 サズリエはいつものように砕けた態度ではなく、王として振る舞い、ジェイクにマスリーン国王ヒューゴから預かった書状を求める。

 ジェイクは国王ではなく、その前に彼を守るように立つ補佐官ハリスに書状を差し出した。それを受け取り、ハリスはサズリエに書状を渡す。

 静寂の中、折った紙を開く音が響く。

 ハリスは王の隣でその書状に目を通した。


「なるほど。用件は理解した。ジェイク。長旅で疲れているだろう。休むがいい。ハリス。案内してあげなさい」

「……はい」


 定番の無表情のまま、ハリスは返事をした。


「ジェイク様。こちらへ」

「はい」


 書状の内容の返事をもらっていない。

 しかし王に即答を求めるなどありえないことであり、ジェイクの身分的にはそれは聞けないことだった。

 なので素直に彼はハリスの後について客間へ向かう。


 ハリスがジェイクの後について謁見の間を去った後、サズリエは面白そうに微笑んだ。


 ☆


「陛下。どう答えるつもりですか?」


 ジェイクを客間に送り、侍女に世話を頼み、騎士に護衛を命じてから、ハリスはまっすぐ謁見の間に戻った。しかし王の姿すでにそこにはなく、彼はすぐに隣の王室の扉を開けた。


「早いなあ。ハリス」

「陛下!」

「まあまあ、そんなに荒がってないで。ルイカの肉親が見つかってよかったよ」

「陛下はご存じだったのですか?」

「知らなかったよ」


 顔色変えずサズリエは答える。


(嘘に決まってる)


 ハリスはそう思ったが、懸命にも言葉にしなかった。


「とりあえず、ルイカに話すのが先だろう。ハリスは彼女に秘密にするつもりなの?肉親が見つかったんだよ」

「そうですが……あなたも肉親といえば肉親でしょう」

「ルイカはスフィルではない。そう言ったのはハリスだった気がするけど」


 サズリエは目を細め笑う。

 ハリスは苛立ちを隠せなくなり、主君を睨みつけてしまった。


「まあ、怒ってもしかたがないよ。事実は伝えなければね」


 冷静なサズリエの言葉にハリスは同意するしかない。

 ルイカを守りたい、傍で見守りたいと思っているが、それはハリスの気持ちで押し付けることはできない。

 

「さあ、ルイカの元へ行こう。まずは彼女の状況を説明するのが先だ。まあ、私は隣国にみすみすルイカを渡すつもりはないけどね」


 ☆


「私が、ですか?」


 ハリスがサズリエを伴って現れ、ルイカは少し嫌な予感がした。

 予感は的中で、明かされた事実に唖然とする。

 ルイカは隣国マスリーンの前王の遺児であり、現国王ヒューゴの異母妹である。

 王はこれまで放置していたことを詫び、妹として王宮に迎え入れたい。

 それがマスリーンの使者ジェイクが持たされた書状の内容だった。


「君はマスリーンに行きたい?」


サズリエに問いかけられ、ルイカは答えられなかった。

正直マスリーンには嫌な思いしかない。

それはすべてスフィルの記憶に起因する。

ルイカとしてはマスリーンにこれといって特別な感情はなかった。


(マスリーンに渡って、スフィルがしたことを少しでも償うのもいいかもしれない。ここにいたら、ハリスもカリティットも優しいし、大切に扱ってもらって、自分の犯した罪の償いなんてしてもないもの)


「行きたいです」

「ルイカ?!」


 ハリスは顔色をかけて彼女の名を呼ぶ。

 サズリエも驚いているようで、目を見開いていた。


「どうして行きたいのかな。ルイカ。いや、スフィル」

「……私はマスリーンの王妹なのですよね。だったら、行く方が普通だと思います。兄に会えるのですから」


 本当の気持ちを言ったら止められる。

 特にハリスは止めそうだと、ルイカはサズリエをまっすぐ見つめて答えた。


「……私は君を行かせるつもりはない。君は王妃になってもらおうと思っているんだ」

「陛下?!」

「大丈夫。手は出さないよ。今は違うとしても、前世が弟だったルイカを抱くつもりなんてないから」

「それは」


 生生しく答えられ、ハリスは言葉を詰まらせる。

 ルイカは完全に予想外で声を失って、口をパクパク動かして、前世で兄だったサズリエを見た。


「なんか傷つくなあ。君は僕の妻になれば、和平は恒久なものになって、君をマスリーンに渡さなくてもいい。いい考えだと思うけど。君はそれでもマスリーンに行きたいの?」


(形だけでも、王妃になれば、確かに和平協定は強くなる。だけど、優しい日々は続く。私は人殺しなのに。前世でも今世でも)


「私はマスリーンに帰りたいです」


 マスリーン王の妹であれば、戻ることは即ち自国へ帰ることになる。

 なのでルイカはあえてそのような言い方にした。


「君の意志を尊重するよ。君が我が国に弓を引くとも思わないし」

「陛下!」

「ハリス。私たちはルイカの意志を尊重すべきだ。そうだろう?」

「……はい」


 サズリエに問われ、ハリスは項垂れながら返事をした。


(ごめんなさい。ハリス、兄上。ありがとう)





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