震えるジョー_伝説の殺し屋
「奴は天才だ。多分、今も。」
※ジョーのボス、ヤメロッティの賛辞。
殺し屋ジョーは、大変おもしろい経歴の持ち主だ。
殺し屋にしては珍しく、大学までの教育課程を終わらせている。
そして、一般企業への勤続歴があり更に定年まで勤めている。
そう、ジョーの殺し屋デビューは定年後なのだ。
彼は、一生懸命、一つの会社に勤めあげ、定年後のセカンドライフに
やりたいことを思い切りやろうと決めていた。
それが、前から興味のあった殺し屋だった。
彼は犯罪とは無縁の生活を送って来ており、コネクションは無かったが
仕事での経験則から、そっち関係の一番の大手に自ら応募した。
この時、身元も確かで社会人としてまともな経歴のあるジョーを
誰も相手にしなかったが、まだやっと組織の中で
何人か部下を持った程度だった当時のヤメロッティが
「まあ雑用で使ってみよう」と雇ってくれた。
社会人経験があるから、スケジュール管理とか、よその組織との調整や
簡単な取り立てをさせていたが、ヤメロッティはすぐにジョーの
才能に気が付いた。
ジョーには「悪いことをしている」という感覚が無い。
ヤメロッティの指示でやることは「仕事として」やるべき事で
それによって誰かが痛い思いをしても、関係が無かった。
そして、ためらいが無い。
悪いことをしているという感覚が無いのだから、どんなに人に
泣きつかれても、動じることが無かった。
泣きつかれたり、お願いされて躊躇している時に、
撃たれたり刺されたりする奴もいるが、
ジョーにはそういった隙が無く、相手に諦めをもたらすことが出来た。
何よりジョーが悪事に向いていると確信したのは、
ヤメロッティに似ているからだった。
そして、雇って一ヶ月もしない内に、
ジョーを殺し屋デビューさせることになった。
ヤメロッティは最初の一回だけ、一緒に付いて行って初心者用の
ガイダンス等をしただけで、それから後の仕事には、
誰も一回も付いていくことが無かったほど、
ジョーは一人で完璧に殺し屋の仕事を回していた。
この天才は一年もしない内に今までの世界を書き換えた。
ジョーはずっと色んなやり方を勉強してきたし、
「最強の殺し屋列伝」も何回も熟読したし、
イメージトレーニングは何万回もやってきたのだ。
それも真剣に丁寧に手を抜かず、毎日、積み重ねてきたのだ。
もうポテンシャルも熱意も桁外れだった。
本当にこの仕事が好きでたまらなく、更に天才的な才能に恵まれていた。
この時、ヤメロッティはジョーと生涯契約を結んでいる。
その内容は、
「ヤメロッティに殺し屋が差し向けられたら、ジョーが返り討ちにする」
といったシンプルなものだが、これはジョーが今後、最高の殺し屋になって
他の組織からヤメロッティの殺しを依頼された時の、セキュリティーだった。
ヤメロッティの予想は現実となり、世紀の殺し屋ジョーを抱える、
ヤメロッティの組織は、飛ぶ鳥を落とす勢いで勢力を拡大していった。
そして、最大組織のボスとなったヤメロッティはジョーに、
「今後は、好きな時に好きなだけ仕事をしても良い」
と伝えた。
これは定年再雇用の年齢を過ぎても、仕事がしたくてたまらない、
ジョーの不満解消を見据えての指示だった。
「だが、俺との生涯契約は忘れるなよ」
と、ちゃんと念を押した。
ジョーがなぜ「震えるジョー」と呼ばれるかは、
初めての仕事の時に震えていたので、
「怖いのか?」
とヤメロッティが聞くと、
「いや、もう年だから」
と、老人由来の震えだと答えたからだ。
普通は使う武器だったり殺しの方法だったりで
「なになにのジョー」と呼ばれるが、
今までにジョーに狙われて助かった奴が一人もいないし、
目撃例も無いので、初めて仕事をするときにヤメロッティが見た、
震えるといったフレーズが使われている。
ジョーはもう後期高齢者医療制度が適用される年齢になったが、
今日も大好きな殺し屋の仕事に励んで、磨きをかけている。