なりきれないロボットと工場と人と
人とロボットが仲良く暮らす町がありました。
人やロボットたちは同じ工場で毎日毎日、繰り返しお仕事をしています。
みんなは部品を作っているのですが、どんなものができるのか誰も知りません。
自分たちのお仕事に疑問を感じていませんでした。
けれども、そんなロボットや人の中で一人だけ上手く馴染めないロボットがいました。
そのロボットはムラサキ色のカラダをしたロボットで名前はエリックといいます。
エリックはいつも失敗ばかりしています。
そんなエリックはどうしても考えてしまうのです。
「これは何を作ってるんだろう? なんでこの順番で作らないといけないだろう?」と。
考えてしまうばかりでどうしても皆と同じようにお仕事をすることはできませんでした。
エリックは毎日、皆みたいになれないコトを悩みました。
毎日、毎日考えました。
そうして考えていると、ある時いいコトを思いついたのです。
みんなには怒られてしまうかもしれないけれど、違うことをしてみるコトにしたのです。
次の日、エリックは組み立てる順番を変えてみました。
上手くいかずに、やっぱり失敗ばかり。
周りの人やロボットたちは、一日中おかしなコトを繰り返すエリックが心配になりました。
みんなが離れて見守っている中、いつも一緒にお仕事しているロボットが声をかけます。
「エリック、エリック! キミ大丈夫か? いつもよりゆっくりだし、なによりなんで順番を守らないんだい?」
そう聞かれたエリックは答えます。
「ボク考えたんだ。 上手くいかないなら、やりかたを変えてみようって」
それを聞いた周りの人やロボットたちは怒りました。
「それじゃマズいよ。 せっかくみんなで力を合わせてやってるのに違うコトされると困っちゃうよ」
「そうそう。 今までこのやりかたをしてきて上手く行っているの」
「順番変えられたら、同じモノじゃなくなってしまうかもしれない」
エリックはやっぱり怒られてしまったのでした。
でも、エリックはあきらめていません。
エリックは今までよりもお仕事に向き合えた自信があったのですから。
来る日も来る日も考えて、考えて、ためしてみての繰り返していく毎日が続いていきます。
みんなとは違いゆっくりとしたペースではありましたが、エリックは前よりもほんの少しだけ失敗することがなくなってきたのです。
そんなエリックの頑張っている姿を知っているみんなは、もう何も言いませんでした。
ある日、そうしていつものようにお仕事をしていると工場長がお仕事が問題ないか見に来たのです。
ゆっくりと見て回っていた工場長はエリックの前で足を止めました。
「キミなんでみんなと違うコトしてるの?」
工場長が尋ねるとエリックはいいました。
「みんなと同じようにしても上手くいかなくて……。 だから、ボクでもできそうなコトをためしてみているんです」
エリックのその答えに工場長は困ってしまいました。
それは、エリックが作っているモノが少しだけみんなと違うのです。
みんなで力を合わせて作っている中、違うものがあるとお仕事が上手くいかないと工場長は思いました。
ですが、エリックの作った物は違いはあれど、問題ない物なのは間違いありません。
そこで工場長はエリックに言ったのです。
「キミ新しいモノを作ったりするのは好きかな?」
「多分だけど、好きかも! 順番通りにお仕事するよりも自分で考えてやってみる方があっていると思う!」
「それなら別のお仕事をしてもらおうかな。 ほら、ついてきて」
工場長はエリックを連れて工場から出ていくと、少し離れた小さな3階建ての建物に入りました。
建物の中には数人の人がいて、何かを書いたり作ったりしています。
不思議そうにきょろきょろと見ているエリックに工場長は教えてくれます。
「ここはね、新しく作るものを設計する場所だよ。 キミにはみんなと一緒に考えるコトをしてほしい。 どれだけ失敗してもいいから、いい物を作ってね」
エリックは必要とされているのが嬉しくて「はい!」と元気よく答えるのでした。
その日からエリックの毎日は変わったのです。
一人でうんうんと頭をかしげながら、考えて考えて。
ときには、みんなでお話をして自分の考えを教え合ったりするのです。
いつものように考えるて設計する毎日を過ごすエリックたちに、工場長がある物を持ってきたのです。
それは持ち運べる小さな時計でした。
一つずつ手渡すと工場長はエリックたちに言いました。
「となりの町で作られた時計なんだけど、みんなでこれとは少し違ったウチの工場のモノを作ってほしいんだ」
みんなは時計を見ながら悩んでいる様子でした。
自分たちに作れるのだろうか、と。
けれども、エリックだけは違いました。
早く作ってみたくてしかたがなかたったのです。
エリックのうきうきした様子を見て、みんなも作ってみる気になったのでした。
みんなは時計を作ってみることにしたのですが、なかなか上手くいきません。
もらった時計とまったく同じ物ができるだけででした。
エリックはというと、一人で分解して中身がどうなっているのかから調べてみたのです。
何度も何度も組み立てては分解して、ちょっと変えてみているうちに「ここはもっとこうした方がいいんじゃないか? こういったモノを付けたら面白いかも」とアイディアが頭の中にあふれてくるのです。
みんなにアイディアのお話してみます。
「みんなに聞いてほしいんだけど、いいかな? あのね、まずは小さい時計なんだけど音が鳴るようにしたいんだ」
「音? なんでそうするんだ。」
みんなはエリックが音が出るようにしたいというと、首をかしげます。
エリックはこうしてみるといいかもとアイディアの話をします。
「えっとね、音がなって今の時間を教えてくれるみたいな感じにしたいの。 それも決めた時間がきたら鳴るように」
エリックの話を聞いたみんなはとりあえず、やってみることにしたのです。
みんなで力を合わせて、思いついたものをつけてみたり、部品を少なくしてみたりするのでした。
そうして何度も何度も失敗して、ついに完成したのです。
できたという話を聞いた工場長は飛ぶように走ってきました。
「おおっ! ついにできたのか! ほら、みせてみせて!」
あまりの勢いにみんなは驚きつつも手渡します。
手に取って問題ないか、色々と確認しています。
しばらく時計を触ってから、工場長はいいました。
「みんなありがとう! これなら問題ない。」
その言葉にみんなは手を取り合って、大喜びします。
「エリックのおかげでできたんだ! ありがとうな」
「えへへ……。 みんなが手伝ってくれたおかげだよ。 ボクはただ色々と考えてやってみただけだから」
みんながいっぱい褒めてくれるので、エリックは顔を赤くして照れてしまっているのでした。
それからもエリック思いついたコトをためして、失敗しての毎日。
毎日のように悩み考えていますが、もう悲しい気持ちになったりはしません。
その顔は心から楽しいと感じているような嬉しそうな笑顔だったのですから。
エリックはいつまでも楽しく過ごしていくのでした。