契約書
差し出された紙には署名捺印の欄があり、どうやら雇用契約書のようだ。細かい字で色々書いてあるけど……、給与の支払いや今回の仕事の内容に付いて書かれている様だった。
何と日払いと月末払いを選べるらしい…これは助かる!
それ以外には寮の利用のルールと一番悩む内容が……。
《実験により何か起きた場合、会社側で対応できる限度を越えた事柄については責任は負えない》
と、書いてある。(大丈夫なんかなぁ……これ)
そして、以上を了承し双方同意したものとする。
とあり署名捺印の欄がある。
「何か質問はあるかしら?」
「特には無いのですが、余りにも怪しいと言うか何というか……この飲物って中身なんなんですか?」
俺は不安になり医師に尋ねてみる。
「申し訳ないのだが、それはこの仕事の性質上明かすことはできない、プラシーボ効果と言うのもあるからね」
板場医師は無表情で俺を見ている。鎌苅という女性はなんだか楽しそうな顔をしている。
「何か不満でもあるのかしら、かなりウチとしても良い条件を出していると思うのだけど、食事と住む所にお給料まで貰えてまだ何か足りないと言うのであれば仰って下さい」
(確かに条件は良いが怪しすぎる……)
俺が判断し兼ねて返事ができずにいた。
「この程度の決断も出来ないようでは、大した男では無さそうねぇ、男らしくスパッと決められないものかしら」
「まったく見た目だけの男だったようね、残念……」
段々言葉遣いが雑になってきている、しかも最初の話とは随分違うでは無いか!何が『やるかやらないかはあなたに任せたいと思うわ』だよ!しかし俺もかなり追い込まれた状況なので何も言い返せない……悔しい。(仕方ない、腹を括るか)
「わかりました。桜庭さんのお世話になりたいと思います、これからよろしくお願いします。」
サインを書き終えた瞬間、黒髪とジャージが歓声を上げた。
「名前書いたわね……これで契約成立よ!」
黒髪がとんでも無く悪い顔をして微笑んでいる……
「やったぁ!安成クンこれからよろしくねぇ!♡お姉さんいーこいーこしちゃおっかなぁ」
ジャージの女の子はいーこいーこの身振りをしながらニッコニコである。
(そして安成は俺の下の名前である、いきなり名前呼びとは距離感がバグってるな……)
「じゃあ早速だが、菊門君。服を脱いでもらえないかな」
板場医師が近づいてくる……
「えっ、えぇっ?いきなりどういう事ですか服を脱げって」
無意識で逃げる様に後ろに下がってしまう。
「まぁ、簡単な健康診断みたいなものさ」