夕飯その10
「ねぇねぇ準備できたよー?冷めちゃうから早く食べようよ〜 」
たまみさんがみんなにスプーンを渡しながら困り顔で訴えている横で、既に板場先生は食べ始めている。
「あ〜、板ちゃん頂きます言ってないよ!」
「……んぃ…ままぎ……まゔ……」
板場先生はもぐもぐと唸っている
「わーった、わーったよ。ほら新人もスミも頂きますして食おーぜ!」
瑠美さんは俺たちにスプーンを渡し、手を合わせて食べ始めた。
「くぅーーっ、うめぇ!最高だな、たまのカレーは!」
「そうね、折角のたまちゃんのご飯だもの温かいうちに美味しく食べましょ!いっただっきまぁーーす!」
「んーーっ!美味しーい!とっても美味しいわよたまちゃん」
「じゃあ、俺も頂きます!」
(…………!!!美味いっ!)
絶妙なスパイスの香り加えてトマトの酸味と鯖の風味が良く合う!そしてこれは水煮じゃなくて味噌煮缶だ!味噌煮のまろやかな甘さがカレーの辛さと絶妙なハーモニーを奏でてスプーンが止まらない、こんな美味しいカレーは久しぶりだ。
「凄く美味しいです!こんな美味しいカレー本当に久しぶりです、おかわり貰っても良いですか?」
「……こんな美味しいご飯毎日食べられたら幸せだろうなぁ」
俺はもっと食べたい衝動に負けておかわりのお願いをしながら、ポロッと正直な気持ちが出てしまった。
「あら〜♡、ありがと〜!安成くんったら嬉しい事言ってくれるじゃない、また何か作ってあげるね!」
たまみさんは嬉しそうにくねくねしながらおかわりをよそってくれたのだが、俺は自分で恥ずかしくなって赤くなってしまった……情けない。
「なんだヤス、お前たまみたいな女が好みのタイプなのか?」
完全に部活の先輩に弄られる後輩ポジションの呼ばれ方である。
「そっかぁ、残念だったなぁスミ〜!新人君、たまに取られちまったなぁ、あっはっは」
瑠美さんは大笑いしながら桜庭さんの方を向いて不意に固まる、俺の背筋に急に悪寒が走る。
「なんで、私がいちいちそんな事で残念がらなきゃいけないのよ……?意味わかんないんだけど…… 」
猫島さんを睨みつける桜庭さんからはどす黒いオーラが立ち上っている。
「本気で◯にたいのかしら?アンタのその皮ひん剥いて三味線にするわよ?バカ猫!!!あんたの来月の給料見てなさいよ!ひと月煮干で生活させてやるわ!」
「アンタも鼻の下伸ばしてんじゃ無いわよ!変態!」
(うわわわわ……怖わっ!見える……怒りのオーラが……逃げ出したいけど脚が動かない……)
桜庭さんは小刻みにプルプル震えながらひきつった笑顔を俺に向けている……えぇ……なんで俺なの?