夕飯その7
「おっ、サバのカレーじゃんか!サンキューたま!」
(成程、瑠美さんは魚が好きなのか)
「今日、お肉切らしてたから瑠美ちゃんの鯖缶使っちゃったよ?」
「全然構わねーぜっ、たまの飯はうめぇからな!」
「こっちもありがてぇ!」
鍋を覗くとコロコロとサバの切り身が見える。俺は思い切りカレーの香りを吸い込んだ。腹の虫の臨戦スイッチがオンになり、自然と声のトーンが上がってしまう。
「鯖のカレーですか!初めてですけど美味しそうですね」
外から完全に仕事モードがオフになった桜庭さんの声が近づいてくる。
「たーまちゃーんっ!こーんばんわーっ!」
「美味しそうなカレーの匂いがお外にまで溢れてて、我慢の限界よー!」
「げぇ……何でコイツの部屋なのよ、せっかくのたまちゃんの料理の美味しさ半減よ!」
(……俺見るなりそれかよ、なんか扱いが酷いな)
「悪かったっすね〜、俺の部屋で!」
「俺もこんな人だとは思わなかったですよ、面接の時にちょこっと素敵だなぁと思った自分に腹が立ちます……」
「うわぁ……キモいんですけど」
「あんたそんな目で私を見てた訳?」
(かなりのオーバーアクションで身じろぎしながら本気で気持ち悪がってやがる!ムカつく!)
「まぁまぁ墨ちゃん、座って座ってほらほら」
たまみさんに促されて桜庭さんも腰を下ろす。
「菊門君、お邪魔するよ」
「たまみ君、今日は夕飯のお誘いありがとう」
(板場先生はいつもクールで落ち着いていて、感情が読み取り難いんだよなぁ……その点、桜庭さんは誰が見てもわかる程表情が豊かだ)
「すみません、まだ散らかってますけど……」
「流石に六畳に五人は多いですね……ははは」
こんな状況が初めてな俺は、どこに座って良いのか分からず笑って誤魔化した。
「そうよ、あんた図体デカいんだから廊下行きなさい!ろ・う・か!」
プイッとそっぽを向いたまま、相変わらずあっち行けの仕草をする。
「まぁそう言うなって、スミの男嫌いもいい加減治さねえとな!新人ココに座れよ!」
瑠美さんは桜庭さんとの間を指差し『ココだよ!ココ』と言ってニヤニヤしながら俺を見た。