犬のきもち
ー夏ー
容赦なく太陽は日照り
セミの声や風で靡く草木の音が夏を盛り上げ
衣替えをした制服も肌に馴染んでくる頃
校庭には乾いた土に陽炎が立つ昼下がり
外の世界と打って変わって
教室は静かだ
校庭内の空は大きい
蒸してヨレヨレになった教科書をめくりめくり辺りを見渡すと
シーブリーズの匂いが漂う中、
チラホラとローファーと靴下を脱いで授業を受けている生徒もいる
中にはアイスノンを仕込む人もいる
暑さ対策は十人十色で万全らしい
先日ーーー
「・・・犬が好き」
「猫と犬だったら?」
「犬かな」
犬
になりたい
脳に ほんの一瞬そんな思いがよぎった
こう思うのも訳がある
犬になったら、どんな顔になるんだろう
どんな風に戯れるんだろう
散歩とかするのかな
犬のきもち というやつだろうか
以下、私の妄想である
ははっ、くすぐったいよーーーーーーーーー
よーしよしよし
撫でられる犬の頭
見てみたい
半ば笑いながらそんな事を考えていた
私だけがキラキラした雰囲気に包まれ
授業は終わっていった
放課後
部活には入っていない
そう、私は自由の身
放課後は暇なので
色んな人に声をかけて部活動を応援している
陸上部
バレーボール部
剣道部
サッカー部
野球部
水泳部
美術部
合唱部
合奏部
弓道部
など
割と部活動は盛んな学校だ
偏差値はそこそこ良いらしい
(一部の人達が頑張ってくれている)
教室に炭でデカデカと書かれた文武両道という文字が眩しい
部活をしている人は
部活だけじゃなく、恋や進路、悩みは人それぞれ
もちろん秘密にしとくんだ
ため息をつくのも時には必要だ
学校は広く、至れり尽くせりだ
校庭
中庭
視聴室
理科室
体育館
第2校舎
プール
屋上
保健室
長い廊下と
溜まり場のようなスペース
生徒数は多く
色んな人に声をかけては写真を撮ったり
遊んでいるだけじゃない、
校長の側近と一緒に草むしりをしたり
雨が急に降り出しそうになると校庭で部活動をしている生徒に呼びかけをしたり
地味に必要とされる
そんな感じで学校敷地内を知り尽くし、
そんな形で学校には一応貢献している
一方、
加賀見くんは同じ帰宅部でもすぐに帰ってしまう
どうしてだろうーーーー
加賀見くんは話す人もいるし
浮いてるって訳でもない
大人というか
何処にでも誰にでも合わせられる人って感じだ
気になる
キュンとしてしまうんだ
何気ない仕草に
そんなところを後ろから見れる席の特権だ
後ろ姿
優しい雰囲気が漂う人
たとえ会話をしなくとも
学期末試験、最高の夏休みにするために全力で徹夜
赤点は採らずに
一学期が終了
嬉しい反面、新学期には席替えがあることを知っているから
私は
これで加賀見くんとは離れてしまう
いいのかあさこ
このままじゃこの恋は
ホームルームを終えた教室は賑わっていた