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野菜

「おお、アデルはん。久し振りでんな。どうぞ、入ってや」


「お邪魔します」


 ムラビット――彼らの言うところの「大兎鹿人オオウサカジン」、そのサカイ族の長であるノックがアデルたちを出迎え、中へと招き入れた。


 ムラビットは人間の子供くらいの、二足歩行する白い大きな兎といった見た目で、頭には鹿のような角が生えている。能力・魔力はあまり高くないが、土魔法だけは得意で地中に家を作り生活していた。以前に魔物に襲われているムラビットをアデルが助けたことがあり、今回は三度目の訪問となる。


 アデルは人間には小さいテーブルにつき、エプロンをしたムラビットが入れてくれたぬるいお茶をすする。ポチはムラビットの子供たちのおもちゃにされており、イルアーナもそれに混じって遊んでいた。


「実はダークエルフの一族が近くに森を作ることになりまして……」


 アデルはノックに話を切り出した。


「森? こんなところにでっか?」


「ええ。それで皆さんにも協力していただけないかと……」


「それはかまへんけど……いただくもんはいただくで」


 ノックは白い毛に覆われた短い人差し指と親指で丸を作った。


「それは……お金ですか?」


 アデルは尋ねる。ノックのジェスチャーは人間では金を表すジェスチャーだったからだ。


「はぁ? わてらが物頼まれるときにもらうもん言うたらキャベツに決まってるやろ」


「あぁ、キャベツなんですね……そのうち食料生産が軌道に乗ればお渡しできると思います」


 アデルは苦笑いしながら答える。


「まあええで。アデルはんの事は信用してますさかいな」


「ありがとうございます。とりあえず寝泊まりするためにノックさんたちが住んでるここみたいな部屋を作っていただきたいのと、森になる部分の地面の石とかを崩して柔らかい土壌にしていただきたいんですが」


「ほうほう。そんなに広いのは無理やで?」


「ええ、とりあえず狭い範囲で構わないです」


「わかったわ。ワシらに任せといてや」


 ノックは自信ありげにポンポンと胸を叩いた。


「食料生産と言えば、頼まれてた土芋と甘カブ、とっといたで」


 ノックは一匹のムラビットに合図を出す。そのムラビットはカゴに野菜を積んで運んできて、テーブルの上に置いた。


「あ、これはまさしくジャガイモ! ……と、たぶん甜菜てんさいです」


 アデルは運ばれてきた野菜を見て顔を輝かせる。


「土芋はともかく、甘カブは変に甘いうえに土臭くてあんまウマくないで」


 ノックが鼻を引くつかせながら説明する。


「ジャガイモと甜菜?」


 イルアーナがムラビットの子供を抱きながら積まれた野菜を見る。


「毒茄子の根じゃないか。こんなもの食べたら腹を壊すぞ」


 イルアーナはジャガイモを見て眉をひそめた。


「せやねん。腹壊すねん。ただ出来立ての土芋は確かにウマイで」


 ノックもイルアーナの言葉に賛同する。イルアーナにはムラビット達の言葉は他言語に聞こえるらしいが、ムラビット達はイルアーナの言葉が理解できていた。


「芽とか茎の部分は毒があるんですけど、美味しいんですよこれ。それに収穫量も多くて瘦せた土地でも収穫できるすごい野菜なんですよ」


 アデルは力説する。この世界でもポテチが食べられる可能性に興奮していた。


「そうなのか。確かに言うとおりであれば食料問題の解決に役立ちそうだが……こっちの甘カブは何に使うのだ? 人間たちも家畜の餌くらいにしかしていないはずだが」


 イルアーナは片手で甜菜を手に取った。


「それは僕もあんまり知らないんですけど、砂糖の原料になるらしいんですよ」


「砂糖?」


 この世界の甘味料と言えば蜂蜜が主流であり、大陸内では砂糖は生産されていなかった。


「蜂蜜みたいに甘い粉ですね。たぶん、これを煮詰めれば出来ると思うんですけど」


「ふむ……まあ利用できるのであれば止はしないが……」


 あまり乗り気ではない様子でイルアーナは呟いた。


(まあ、実際この世界でも作れるのかは試してみないとわからないしな……)


 アデルはもらったジャガイモと甜菜を荷物袋にしまう。


(……ポチに食べられないようにしないと)


 アデルは世界樹の実事件を思い出し、心に留めた。


「ところでその後、人間の村人とかとは問題起きてはいませんか?」


「問題ないで。お互い、姿を見かけても会釈して通り過ぎるくらいや」


 どうやら近くのズールの村の住人とムラビットが共存できそうでアデルはほっとした。


「じゃあ早速なんですけど、その森の予定地に地下部屋を作ってもらうことってできますか? ダークエルフの族長がそこで木の番をしていまして……」


「ええで。小さい部屋ならすぐ出来るしな。ほな何匹かで一緒に行くわ」


 アデルの頼みにノックは立ち上がり、手配をする。五匹のムラビットが槍を手に取り外出の準備をした。


「ありがとうございます」


 アデルは笑顔で礼をする。


「……ちなみに、ノックさんたちは人間やダークエルフと一緒に住むのは嫌ですか?」


 かわいくて役にも立つムラビットが住人に加えられないかと思い、アデルは聞いてみた。


「人間と住む? んなこと考えたことなかったな」


 ノックは首を傾げた。


「もちろん、みなさんの安全とか食料を確保出来たら、って話なんですけど……」


「まあ考えとくわ」


 適当にあしらうようにノックは返事をした。


お読みいただきありがとうございました。

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