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再び

 穴掘りの役目を終えた石人形ゴーレムは再びトンネルを塞ぐいくつかの岩となった。


「さらに埋める必要があるなら人間がやるだろう。我らは先を急ぐとしよう」


 ジェランたち三十名ほどのダークエルフを加え、アデルたち一行は人目を避けながらマザーウッドへ向かうことになっている。それは奇しくも暗殺から命拾いしたアデルがイルアーナとマザーウッドに向かうときとほぼ一緒のルートとなった。


「ここって最初にイルアーナさんと泊めてもらった村の近くですよね」


「そうだな」


 日も暮れかけ、周りが野営の準備をする中でアデルとイルアーナが話していた。


「ちょっと様子を見てきてもいいですか? 気になっていたもので……」


「かまわないが……くれぐれも怪しまれるような真似はするな」


「わ、わかってますよ!」


 イルアーナに見送られ、アデルは一行から離れ村へと向かった。




 自分たちを守ってくれるはずのヴィーケン軍から略奪を受けたという村は、焼け落ちた家が相変わらず痛々しい姿をさらしている。しかしアデルたちが前に訪れたときは男たちが兵士としてガルツ要塞に召集されており人気がほとんどなかったが、今は各家に明かりが灯り、煙突からは煙が昇っていて人の住む村らしく見えた。


 以前の廃墟のような状態を心配していたアデルは、村の日常が戻ってきている様子にほっとする。


「ここだっけ?」


 アデルは以前に自分たちを迎えてくれた初老の女性の家の前に来た。ちなみに素顔は晒している状態である。家の中に人はいるらしく、扉や窓から明かりが漏れていた。


(どうしよう……わざわざ挨拶するほどのことじゃないしな……)


 家の前でアデルはしばし逡巡しゅんじゅんしていた。


「あんた、うちの前で何やってるんすか?」


「え?」


 そこに突然、後ろから声を掛けられる。振り向くとそこには農具を担いだ、幼さが残る顔の青年が立っていた。


「あんた、まさか……!」


「ち、ち、ち、違うんです! けっして怪しい者では……」


 睨むようにアデルの顔を見る青年に、アデルはしどろもどろになった。


「やっぱりそうだ……アデルさんっすよね!」


「へ?」


 ぱっと明るい表情になって自分の名を呼ぶ青年に、アデルは戸惑った。


(そう言えば、この家の女性はご主人と息子が兵役に出てるって言ってたっけ……)


 アデルの顔色が青ざめる。


「とーちゃん、かーちゃん! 見てよ! アデルさんだ! やっぱり生きて……」


「うわーっ! お、大声出さないでください!」


 そんなアデルの様子など知らず家に向かって叫び出す青年をアデルは慌てて止めた。




「へぇ、そんなすごい人だったんだねぇ」


 初老の女性が感心したように言う。アデルはそのまま家に招き入れられ、夕食に勧められた。口止めをしなければならないアデルにはそれを断れなかったのである。


「く、くれぐれも内緒でお願いします」


 雑多な野菜を煮込んだスープに口を付けながらアデルはお願いした。


「もちろんですよ。やっぱりあれですか、暗殺されたってのは敵を欺くためですか?」


 家の主人が興味津々といった感じで聞いてくる。息子ともどもガルツにいたという主人は尊敬のまなざしでアデルを見つめていた。


「ま、まあそんな感じですかね」


 アデルは愛想笑いで答えを濁す。


「でも良かったっす。アデルさんが生きててくれて……また招集が来てて、今度こそ生きて帰れないって覚悟してたもんで……アデルさんが生きてるなら、また勝てるっすよね!」


 家の前でアデルと話した青年が涙ぐみながら言った。名前はヒューイと食事の前に自己紹介していた。


「え、またガルツにカザラス軍が攻めて来たんですか!?」


 アデルの脳裏にラーゲンハルトの顔が浮かんだ。


「だと思うんすっけどね。ただちょっとおかしくて、前はガルツ要塞に直接招集されたのに、今回はオリムに来いって言われてるんっす。敵が攻めてきているなら、逆方向のオリムに行くのは時間の無駄なんすっけど……」


 ヒューイは首をかしげながら言った。オリムはここソリッド州の州都で、確かにこの村からはガルツ要塞とは逆方向にあたる。


「迷惑な話だよ。こう短期間で呼ばれちゃ畑仕事なんてできやしない。それにまたこの村が略奪されるかもしれない。こんな国、さっさと占領されてくれた方があたしゃ嬉しいよ」


 女性が不満をあらわにする。


「お前、命がけで戦ったアデルさんの前でなんてことを!」


 慌てて主人が女性の発言を咎めた。


「あ、どうぞお気になさらずに」


 アデルは苦笑いをする。


「ちなみになんですけど……みなさんは平和な生活さえ送れれば、この国がヴィーケンだろうがカザラスだろうが他の国だろうが関係ないって感じですかね?」


 アデルは気になって聞いてみた。


「え? そんなこと考えたこともなかったっす……」


 ヒューイは難しい顔になった。


「国なんてあたしら庶民から富を吸い上げるためのもんだろ。なくなっちまえばいいのさ」


「まあ確かに生活を守ってくれるならどこの国でも……あっ、こ、こんなことを言ったなんて国には言わないでくださいね!」


 主人は慌ててアデルにお願いする。確かに国が滅んでも良いなどと発言した場合、反逆罪で捕まる恐れもある。


「もちろん言いませんよ。その代わり僕のことも内緒でお願いしますね」


 再度念押しし、アデルは食事を終えてお暇すると、ダークエルフたちの元へと帰った。

お読みいただきありがとうございました。

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