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越境

 国境を抜けるトンネルの前でイルアーナは風魔法による通信を行っていた。


「父上がトンネルの前まで来ているはずだ。我々が辿り着くころにはトンネルが開く」


「ヴィーケン側に気付かれないように、直前で見張りの兵を倒すんでしたね……」


「ああ。安心しろ、出来るだけ殺生は避ける。十人程度の見張りであれば父上たちなら造作もなく無力化できるであろう」


「まあ確かに姿を消して近づかれたらなかなか対応のしようがないですもんね」


 イルアーナとアデルが話しているうちに、ダークエルフたちが入り口を塞ぐ木の板を取り外していく。澱んだ空気がトンネル内から溢れだした。


「これがエルフの掘ったトンネルか。道理で陰気なわけだ」


 モーリスがトンネルの中を見ながら言う。どうにか馬車一台程度ならば通れる幅があった。


「よし、進むぞ!」


 モーリスの号令で、ダークエルフの乗った馬車が一台、また一台とトンネルの中へと消えていった。





 その頃、ロスルーではラーゲンハルトが帝都から帰還していた。


「ただいま~」


 笑顔で手を振るラーゲンハルトを副官”沈黙”のフォスターと妹の”白銀”のヒルデガルドが出迎えた。


「お帰りなさいませ」


 フォスターとヒルデガルドが敬礼で出迎えた。


「あれ、ヒルデガルド? もうダークエルフ討伐は終わったのかい?」


「それが……」


 三人でラーゲンハルトの執務室に向かいながらヒルデガルドは経緯を説明する。


「ふ~ん……アデル君たちがダークエルフとねぇ」


 ラーゲンハルトは執務室の椅子に腰かけながら考えを巡らせた。


「ええ、確証はありませんが……それで向こうにいる必要がなくなったのでこちらに戻していただきました」


 ヒルデガルドはソファーで紅茶を飲みながら言う。


「そのことについてですが、国境付近でヴィーケンに向かうダークエルフの一団がいたという報告がありました」


「へぇ」


 フォスターの報告にラーゲンハルトは楽しそうな表情になる。


「ヴィーケンとダークエルフが手を組む……そんな大胆なことするのであれば情報入ってきそうなもんだけど」


「そういった情報はありません」


「だよねぇ……向こうにもダークエルフがいるらしいから、そちらに向かうのはわかる。だけどアデル君がどうして関わるのかな。あのイルアーナって女性もダークエルフだったとしたら……元々ダークエルフと繋がりがあって、こちらに来た目的もダークエルフの救出だったのかな」


「イルアーナお姉様がダークエルフ……!?」


 ラーゲンハルトの呟きにヒルデガルドが小声ながらも驚きの声を上げた。幸いなことに他の二人にはヒルデガルドの言葉は聞こえなかったようだ。


「確かなことはヴィーケン国内に得体のしれない勢力が出来上がるってことだ。どう動くのかちょっと不安だな……ところで例の話はどうなってる?」


「”影”の報告では合意にこぎつけたそうです」


「そうか、それは良かった」


 ”影”とはラーゲンハルトが軍の諜報部隊とは別に、冒険者時代の伝手つてを利用して冒険者ギルドで雇った腕利きの間諜部隊だ。ラーゲンハルトは国内外を問わず、重要な裏活動には彼らを用いていた。


「しかし、よろしいのですか? 後に影響しそうな気もしますが……」


「いいんだよ。父上の悲願は大陸統一だ。それ以外なんて些細な事さ」


 心配するフォスターにラーゲンハルトは笑ってみせた。


「とにかくこれでガルツ攻略に必要な駒は揃った。ヴィーケンを攻略して、うるさい父上たちを黙らせてやろうじゃないか」


 ラーゲンハルト率いる第一征伐軍、通称黒蹄騎士団は再びヴィーケンに向けて動き出そうとしていた。




「マティア!」


「ダーリン! 会いたかったわ!」


 再会するなり、マザーウッドの族長ジェランとマティアが抱き合う。イルアーナとギディアムは気恥ずかしそうに、モーリスは少し不機嫌そうにその様子を見つめていた。


 トンネルの出口にはダークエルフの一団といくつかの石でできた2mほどの大きな人形が待っていた。


「あれって……ゴーレム?」


「そうだ。なるほどな、ここを塞いでいた石を材料にゴーレムを作り、穴掘りをさせたのか。一石二鳥だな」


 アデルの呟きにイルアーナが答えた。


「へー。前にゾンビもゴーレムって言ってましたけど、なんでもゴーレムにできるんですか?」


「魔力を宿らせることができる物であればだいたいな。物に応じて必要な魔力も変わってくるが……」


「だったら城壁をゴーレムにしたりも?」


「それは無理だ。基本的に人型にしないと、動かすのが難しいのだ」


「なるほど、イメージが難しいですもんね……ちょっとくらい変えるのもダメなんですか?」


「それはやってみないとわからぬ。なにかやってみたいことでもあるのか?」


「そうですね、やっぱり片腕が武器とかのほうが浪漫あるじゃないですか」


「は?」


 アデルの浪漫はイルアーナには通じなかった。


「ところで……アデル君以外にも人間が増えているようだが……?」


 ジェランがマティアを抱いたまま尋ねる。視線の先にはレッドスコーピオ自由騎士団がいた。


「彼らはなんと説明すれば良いか……アデルについてきた傭兵団なんです」


 イルアーナが歯切れ悪くジェランに説明した。


「ところでフレデリカさんたちはこの後どうします?」


 アデルがフレデリカに尋ねる。


「アタシらヴィーケンのことなんて全然知らないんだよ? だからあんたらについて行くさ。いちいち確認しないでおくれよ。ついて行く気がなくなったら勝手にいなくなるからさ」


「そ、それはそれで困るんですけど……」


 フレデリカの答えにアデルは苦笑いする。


「ふむ……その子供は?」


 ジェランは今度はポチに視線を向けた。


「あ、そうか。ジェランさんはこの姿を見るのは初めてでしたね。この子はポチですよ」


「ポチ? アデル君が連れてたあの白いイタチかい?」


 ジェランが怪訝な目をポチに向けた。


「イタチなんて失礼」


 ポチがプクッと頬を膨らませる。


「ポチはやっぱりホワイトドラゴン――白竜王だったんです」


「白竜王? 光の力を操るという?」


 ジェランはあまり納得がいっていない様子だった。


「それは間違い。金竜王と話が混じってる」


 ポチがジェランの話を否定した。


(そう言えばジェランさんに聞いたのはホワイトドラゴンが光を操るって言ってたけど、ポチとは違ったよな……)


 アデルも首をひねった。


「ポチ、とりあえず信じてもらうために元の姿を見せてもらってもいい?」


「……わかった」


 ポチはすぐさま元の姿に変身する。


「おお! これは確かにあの時の……」


 その様子にジェランは驚いた。


「ちなみにこっちは風竜王のピーコとエントの族長のイグリットさんです」


 アデルは馬車から他のモコモココンビを連れてきて紹介した。


「なんじゃ、飯の時間か?」


「よろしくトです」


 ピーコとイグリットがそれぞれ反応する。


「……すまんが、理解するまで時間をもらえるかな?」


 ジェランの反応は急に竜の王やエントの族長を紹介された側として当然のものであった。アデルとイルアーナはしばらく説明に時間を要するのであった。

お読みいただきありがとうございました。

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