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再会

「来たようじゃぞ。馬車がたくさんやってくる」


 ピーコが空から降りてきてアデルに言った。エルゾの北、プリムウッドから脱出したダークエルフたちには身を隠させ、アデル一行とモーリス、マティアは絶望の森の南側に潜んでいたフレデリカたちレッドスコーピオ自由騎士団と捕虜になっていたギディアムたちダークエルフの一行を待っていた。


 フレデリカたちは馬車二十台ほどの大所帯であった。もともとアデルたちが乗ってきた馬車に加えてカザラス軍の物資集積所から奪った馬車が加わっている。それには大量の食糧等も載っているはずだった。プリムウッドのダークエルフたちは最低限の身の回りの物しか持ち出せなかったため、もし物資を奪っていなければどこかで調達する必要があったであろう。また人員輸送用の馬車もあるため、即席馬車に乗っていたダークエルフたちはだいぶ快適になるはずだ。


「こちらです、兄さん……そう、見えますか?」


 イルアーナが一人でつぶやきながら馬車に向かって布切れを振る。どうやら風魔法でギディアムと話しながら位置を伝えているようだ。その甲斐もあり、馬車はまっすぐアデルたちの元へやってきた。


「ギディアム! 無事だったのですね!」


 先頭の馬車にギディアムの姿を見つけたその母親、マティアは涙を浮かべながら叫んだ。


「ママ!」


 それに反応し、ギディアムは馬車を飛び降りてマティアに走り寄り、思い切り抱きついた。


(……ママ?)


 アデルはギディアムの言い方にひっかかった。ダークエルフの例にもれず貴公子然とした態度のギディアムには似合わない言い方であった。


「良かったわ、ギディアム……もう会えないかと思った……」


「僕も寂しかったよぉ……怖かったよぉ……」


 マティアとギディアムは涙を流しながらお互いの無事を喜び合っていた。モーリスもその脇で瞳を潤ませながら手で顔を覆っている。感動の再会シーンであった。


(マザコン……だよな?)


 しかしアデルは感動できず、微妙な表情でそのやり取りを眺めていた。


「やれやれ、ようやくあいつらから解放されたよ」


 レッドスコーピオ自由騎士団を率いるフレデリカが首をさすりながらアデルのところにやってきた。ダークエルフと過ごすのはいろいろ苦労があったようだ。


「ん? なんだい、その変な鳥?」


 フレデリカがピーコを見て言った。


「鳥とはなんじゃ、失礼な!」


 ピーコが羽をバタつかせる。


「ん? しゃべるのかい? どこかで聞いたような声だね……」


「フ、フレデリカさん、これがピーコの本当の姿でして……」


 アデルは慌てて説明をした。


「ピーコは実は竜族、しかも風を司る竜の王なんです」


 常人にこんな説明をしたところで理解してもらえるわけがないと思ったが、それでもアデルはありのままに説明した。友達になった経緯やポチも白竜王であることなども説明する。


「へぇ。どうりで変わった力を持ってるわけだね」


 ところがフレデリカはすぐさまアデルの説明を受け入れた。


「え? し、信じてもらえるんですか? 普通こんな話、受け入れられませんよ?」


 フレデリカが納得したことで、逆にアデルは狼狽えた。


「何言ってんだい。あんたの周りで普通なことなんて、ひとつもないじゃないか」


 そんなアデルにフレデリカは呆れて言った。


「言われてみれば確かに……」


 アデルは少しショックを受けつつも納得した。


「そういや、来る途中でカザラス兵を十人くらいやっちまったから、早く逃げないと不味いよ」


「……へ? 今なんて?」


 フレデリカがあまりにもあっさりと言うので、アデルは理解できず聞き返した。


「だからカザラス兵を殺したから、この辺りにすぐに追手が来るって言ってんだよ」


 フレデリカが少し不機嫌に言った。


「ど、ど、ど、どうしてそんなことしたんですかっ!?」


 フレデリカの言葉に再びアデルは狼狽える。


「仕方ないだろ? 戦地で兵がうろついていたし、こっちは商隊でも軍の輸送部隊でもないのに馬車を二十台も連ねて移動してるんだ。そりゃ見つかったら呼び止められるさ。その上、馬車の中には見られるわけには行かない連中を乗せてるんだ。怪しさ大爆発だよ。報告されないように口を封じるしかないだろう?」


 エントの力で森を進めたアデルたちと違って、フレデリカたちは街道や開けた平地を走るしかない。移動すれば見つかって当然だった。


「よくやってくれた」


 アデルの心配をよそにイルアーナがフレデリカにねぎらいの言葉をかける。


「いやいや、僕らが逃げたことバレちゃいますよ!」


「相手に気づかれないように逃げられればそれに越したことはないが、追われていない状態でここまで来れたのなら上出来であろう。むしろ好都合かもしれん。我々が街道沿いに逃げていると思わせられるかもしれんからな」


 イルアーナは落ち着いた表情で言った。


「どういうことだい? 街道沿いを行くんじゃないのかい? 馬車を捨てて歩くとか?」


 フレデリカは訝しげな表情でイルアーナに尋ねた。


「森の中を馬車で走るのだ」


「はぁ? 森の中なんて走れるわけないだろう?」


「ふっ、見ればわかる」


 フレデリカの言葉にイルアーナは不敵な笑みを浮かべた。


お読みいただきありがとうございました。

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