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成り行き英雄建国記 ~辺境から成り上がる異種族国家~  作者: てぬてぬ丸
第十四章 真相の章

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調合(伏岸)

誤字報告ありがとうございました。

「うぅ……」


 その時、うめき声とともにタケナオが目を開いた。


「大丈夫ですか、タケナオ」


 マサトラが尋ねる、その声は優し気だった。


「はい、だいぶ痛みは……」


 タケナオがマサトラの方を向いて答える。その時、他の負傷兵たちを治療しているダークエルフたちが目に入った。


「これは一体……?」


「アデル殿が治療の手伝いを申し出てくださったのです。彼らの魔法により、多くの兵の命が救われそうです」


 タケナオの呟きにマサトラが答える。その横でアデルが照れ臭そうに頭を掻いていた。


「アデル殿が?」


 タケナオは茫然とアデルを見つめる。アデルに対して高圧的な態度をとっていたにもかかわらず、自分たちをなぜ助けてくれたのか理解できなかった。


「ま、まあ実際に治療したのはポチ……僕らの神竜の一人ですけど」


「神竜……」


 アデルの言葉を聞き、タケナオは室内を見回す。だがタケナオの想像する恐ろしい姿の竜はどこにもいない。


「神竜と言っても、まだ幼いようですね。ほら、そこに……」


 マサトラは部屋の隅にいるポチの方に視線を向ける。


 マサトラが置いていた薬の数々の前で、ポチは何やらモゾモゾしていた。


「ポチ? どうかした?」


 アデルが不思議に思いポチに近寄る。


「……苦い」


 ポチはマサトラが置いていた薬類を口に詰め込み、モチャモチャと噛んでいた。


「わ、わぁ、何してるの!?」


 アデルが慌てて叫ぶ。ポチは薬を包むために置かれていた和紙に、噛んでいた薬をペッと吐き出した。色々な薬が混ざった緑色の大きな塊が和紙の上に転がる。


「マ、マサトラさん、ごめんなさい!」


「ははは、構いませんよ。もともとアデル殿に頂いた植物も多いですしね。なにより部下たちの恩人に文句も言えますまい」


 頭を下げるアデルにマサトラは笑顔を向けた。


 そして重病人たちの手当てを終えたアデルたちは白鯨城を後にした。次にアデルたちが向かったのは降伏したカザラス軍のところだった。


 カザラス兵たちは野営用の天幕を張り、そこで兵士たちの治療をしている。ダルフェニア軍への降伏はしたものの、新田家との戦いが終わったのかどうかはまだ曖昧なままとなっている。また火を放たれた伏岸の町の人々がカザラス軍を許すわけもない。そのためカザラス軍は城にも町にも入れず野宿を強いられていた。


 現在のカザラス軍は武器のほとんどは取り上げられたものの、拘束はされず自由に過ごしている。毎回のことだが、今回は特にダルフェニア軍側が捕虜に比べて圧倒的に人数が少なく、管理しようにもできないのだ。


「アデル王、どうされましたかな?」


 アデルが来たと聞き、エルゲイツがアデルたちのもとへやってくる。


「怪我をした方の治療をお手伝いしに来ました」


「ほう。それはありがとうございます」


 エルゲイツは頭を下げる。その目は好奇心で輝いていた。ダルフェニア軍がどういう治療行為を行うのか気になっていたのだ。


 そしてアデルたちはエルゲイツの案内で、兵士の治療が行われている大きな天幕へと歩いて行く。道中、カザラス兵たちはアデルたちのために道を開け、アデルたちが通り過ぎるまで敬礼を続けていた。その間カザラス兵たちはアデルやダークエルフたち、そしてポチを興味深げに見る。


「人間時のポチをこんなに多くのカザラス兵たちに見てていいのか?」


 イルアーナがアデルに近寄り、耳打ちした。


「あ」


 アデルはその言葉にはっとした。そこまで厳戒態勢を敷いているわけではないものの、ポチをはじめとした幼体の神竜たちは誘拐などの危険があるため、神竜信仰具でも人間の姿を描いているものはない。もっともレイコやデスドラゴンの神竜信仰具はセクシー要素もあり、幼体の神竜たちにそれをやらせると犯罪臭がしてしまうという理由もあるのだが。


「ま、まあもうバレ始めてるし、いいでしょう。人の命の方が大事です」


 アデルは自分を納得させるように言う。実際、一度はダルフェニア軍になったもののカザラス帝国に帰参した兵などもおり、そこから神竜娘たちの情報も漏れている。ただし見た目が子供だからといって弱いとは限らないため、神竜娘たちの誘拐などは計画されていなかった。王であるアデルが見た目と強さが全然一致していないのだ。カザラス側が警戒するのも当然だった。


 アデルたちが治療の行われている天幕に近づくと、その周りをウロウロと歩いている侍たちの姿があった。


「ア、アデル王……」


 顔に痣を作ったナルヒサが、アデルの姿を見て膝まづいた。顔の痣はアデルに戦いを挑んで破れた時のものだ。ナルヒサの顔色は悪く、その瞳はギョロギョロと忙しなく動いていた。他の侍たちも一様に挙動がおかしかった。


「あ、どうも」


 アデルはぎこちない笑みを返す。ナルヒサたちの奇妙な挙動を気味悪がっているのだ。そしてアデルはその前を通り過ぎようとする。


「あの、アデル王。どうかマサトラ様から強薬丸をよこすよう、言ってもらえませんでしょうか?」


 だがナルヒサはアデルの足元にすがりついてきた。


「やめなさい。敗軍の兵が相手の王に直談判で何かを要求するなど……」


 それを見てエルゲイツが不機嫌になる。


「強薬丸?」


 アデルは首を傾げた。


「ええ。彼らは薬を使って兵の力を強化していたのですが……」


「ああ、それは知ってます。あなた方は禁断症状が出てたんですね」


 アデルは納得する。初対面からナルヒサは様子がおかしかったので、そういうヤバい一団なのかと思っていたのだ。


「でもあれって門外不出なんですよね? ちょっとは分けてくれるかもしれないけど……」


 アデルが悩んでいると、ズボンが引っ張られる。


 アデルが下を向くとポチがアデルを見上げていた。


「はい」


「え?」


 ポチが唐突にアデルに何かを手渡す。それは和紙の包みだった。白鯨城でポチが吐き出した薬が入ってる包みだ。


「これって……」


「作った」


「作った? ……まさか強薬丸を!?」


 アデルは驚く。しかしポチは当然といった様子で頷いた。

お読みいただきありがとうございました。

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